第三十五話:狂気の衝突と、女王の誕生(逆ハーレムルート)
ロゼリアのライナス選択は、瞬く間に裏路地を戦場に変えた。
エドガーは王族としての地位も理屈も捨て、純粋な嫉妬と支配欲を乗せた拳でライナスに襲いかかる。彼の攻撃は粗暴だが、王族教育で培われた武力は凄まじく、ライナスの剣を押し返した。
「ロゼリアは私の所有物だ!貴様のような裏切り者に、私の獲物を守る資格はない!」
ユリウスは、エドガーの乱戦を無視し、天井を崩壊させる規模の詠唱を開始する。彼の狙いはロゼリアの命ではなく、隠れ家全体の破壊による情報の消滅と、ロゼリアの魔力の再捕獲だった。
「無意味だ!貴女の命は、私の研究にこそ存在する。この非論理的な選択を、破壊によって訂正する!」
そして、最も危険なのはノアだった。彼はライナスの剣を避け、シリルへ向かう裏社会の人間を容赦なくナイフで切り裂きながら、ただ一人、ロゼリアを狙う男たちと戦っていた。
「ロゼリア様……貴女の平穏は、私だけが守れるのに……!」
ノアの瞳には、狂信的な愛が裏返った、深い絶望が宿っていた。彼はシリルを倒し、ロゼリアの運命を再び自分の手に取り戻すという、最も危険な暴走へと駆り立てられていた。
ライナスは腕を裂かれながらも、ロゼリアを背後に庇い、命の盾を全うしていた。
ロゼリアは、この四人の狂信的な男たちの衝突、そしてシリルという情報支配者の存在、そして制御不能な自らの魔力を、冷徹に観察していた。
(ライナス様の武力、ノア様の献身、ユリウス様の知性、エドガー様の権力……どれも私を支配する力にしかならない。そして、誰か一人を選んだところで、残りの三人が私を追い続ける地獄は終わらない)
「私を永続的に守り、この地獄を終わらせる力は、彼らを全て従えること以外にない」
ロゼリアは、自らの平穏という究極の目的のために、「悪役令嬢」としてではなく、「女王」として君臨する道を選んだ。
ロゼリアは、アメジスト色の瞳から光を放ち、自らの魔力を四人の独占者に向けて放出した。それは破壊ではなく、強制的な鎮静の力だった。
エドガー、ユリウス、ノアの暴走が止まり、彼らは意識を失い床に倒れ込んだ。
シリルは、ロゼリアの無意識の魔力が五人の独占者全てを同時に制圧した光景を見て、初めて畏敬の念に似た表情を浮かべた。
「……シリル。私の選択は、誰の独占も受け入れない。私は、この国の女王として、全ての運命を支配することを選ぶ」
ロゼリアは、ライナスの手から離れ、冷たい床に倒れた男たちを見下ろした。
「シリル様。契約を破棄した対価は、私が払います。ですが、私と王権、そして彼ら四人の処遇を交換条件とします」
シリルは口元に不敵な笑みを浮かべた。
「ほう?貴女は、世界そのものを選んだか。対価は?」
ロゼリアは、そのアメジスト色の瞳をシリルに向けた。
「私の対価は、貴方です。シリル様。貴方が裏社会で得た全ての情報独占権を私に差し出し、私の情報顧問となりなさい。私が王権を握ることで、貴方は表と裏、全ての世界を支配する最強の座を得る。そして、この五人の男たちの、私への永遠の執着。これが、貴方の求める最高の情報であり、永遠に尽きることのない利益です」
シリルは、この狂気的で完璧な提案に、歓喜を覚えた。
「……素晴らしい。ロゼリア嬢。貴女の支配欲こそが、彼ら五人の狂信を、最も有効に利用できる。私は、貴女の忠実な影となりましょう」
ロゼリアの本当の選択は、誰にも絆されないという、女王としての孤独な支配という形で、ついに結実したのだった。




