第三十四話:終結 — 情報という名の完璧な檻(シリルエンディング)
ロゼリアの選択は、情報屋シリルにとって最高の報酬となった。ロゼリアの全て—本名、経歴、魔力、王室との関わり—は、シリルによって裏社会の深部に葬り去られた。
公的な記録から彼女の存在は消え、残されたのは、「行方不明となった元悪役令嬢」という、曖昧な噂だけだった。
ロゼリアは、国境を越えた小さな港町で、新しい名前、「エリカ」として生活を始めた。彼女は小さな花屋で働き、静かなアパートに住み、誰にも関心を持たれない平凡な日常を手に入れた。
(私は、殺されない。誰も私の魔力も家柄も知らない。私は今、自由だ……)
彼女の心は初めて、「平穏」という名の静けさに満たされていた。
ロゼリアを奪われた四人の男たちは、地獄のような混乱に突き落とされた。
エドガー、ライナス、ユリウスは、彼女の肉体も居場所も失ったが、ロゼリアの痕跡を追うという、永遠の罰を自らに科した。ユリウスは魔力の微細な揺らぎを、エドガーとライナスは裏社会の噂を、それぞれ狂ったように追い続けた。
そして、ノアだけは、ロゼリアが「消して」と願った言葉を忠実に守り、彼女の私物が残されたままの屋敷で、静かな侍従として、永遠の不在を守り続けた。彼らは皆、ロゼリアのいない世界を、彼女を探すという目的だけで生きる、生ける屍となった。
シリルは、ロゼリアを一切追わなかった。その必要がなかったからだ。
シリルがロゼリアに与えた「自由」は、彼の情報網によって完全に管理された、偽りの自由だった。
ロゼリアが働く花屋は、彼の息がかかった裏組織が経営する店の支店だった。彼女の住むアパートの隣人、彼女が読む新聞の記事、彼女がたまたま立ち寄ったカフェの店主――全てがシリルによって配置、管理されていた。
ロゼリアは、自分が望む情報(安全で穏やかな地元のニュース)だけを受け取り、彼女が知るべきではない情報(元の世界での四人の男たちの狂乱)からは完全に隔離されていた。
シリルは、自らの情報顧問の権力を駆使し、ロゼリアの新しい人生という名の「箱庭」を作り上げた。彼女が安心して生活できるという情報こそが、シリルにとって最高の利益であり、彼女への絶対的な支配の証だった。
数年後。シリルは、静かな港町の丘の上にある、セキュリティ万全の私有地に建つ邸宅の窓から、下を見下ろしていた。
小さな花屋の店先で、ロゼリア(エリカ)が、笑顔で客と話している。その表情は、かつての悪役令嬢の冷たさを失い、穏やかな平穏に満ちていた。
「ああ、ロゼリア様……いえ、エリカ。貴女の平穏は、私によって完全に維持されている。貴女の自由という名の存在は、私の情報という檻の中でしか成り立たない」
シリルは、ロゼリアの命の全てを、目に見えない情報の糸で操っているという事実に、最高の恍惚を感じていた。彼はロゼリアの運命の支配者であり、この完璧に管理された静かな狂気こそが、彼の最高の独占だった。
ロゼリア・ヴァリエールは、「誰にも殺されない自由」を手に入れたが、それはシリル・ジェットブラックという「情報屋の永遠の監視」という、最も静かで、最も逃れられない檻の中で許された、偽りの平穏であった。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
シリルエンディングにて、ヤンデレ五人のエンディングを書き終えました。
いかがでしたでしょうか?
明日明後日はオーラス、逆ハーレムルート、エンディングに突入です!
最後までどうぞよろしくお願いします。
評価、ブックマーク、感想などなど執筆の活力とさせていただいています。
よろしければ、お願い致します!




