第三十三話:狂気の衝突と、情報屋への逃亡(シリルルート)
ロゼリアは血の匂いと、四人の男たちが発する狂気の熱量に、「誰も私を守れない」ことを悟った。
ライナスが盾となっても、ノアの絶望、エドガーの怒り、ユリウスの破壊欲が、この裏路地を永遠の戦場に変える。彼女の「平穏」は、この世に存在しないのだと。
そのとき、彼女の視界に入ったのは、全ての騒動から一歩引いた場所に立つ、情報屋シリル・ジェットブラックだった。シリルは全てのカオスを、美しいデータのように静かに見つめていた。
(この人なら。私を『殺されない場所』へ連れて行ける。それは、この世界から私の存在を完全に消すことだわ……)
ロゼリアは、ライナスの背後から、シリルに向かって叫んだ。それは、愛でも支配でもない、ただの取引だった。
「シリル! 私は貴方を選ぶ! 私の全ての情報と引き換えに、私の存在をこの国から、この世界から……消し去りなさい!」
ロゼリアの叫びは、ライナス、エドガー、ノア、ユリウスの四人の狂信者の熱狂を、一瞬にして凍らせた。
シリルは、その予測不能な選択に満足げに微笑んだ。ロゼリアの運命を操る最高のゲームが始まったのだ。
「承知いたしました、ロゼリア様。貴女の運命は、私シリル・ジェットブラックが、完全に管理させていただきます」
シリルは事前に手配していた裏社会の人間を一斉に行動させ、戦闘中の狂信者たちの注意を無理やり逸らした。この混乱に乗じて、ロゼリアを連れて裏路地の闇へと静かに消えた。
ライナスは盾を振り上げ、ロゼリアを追おうとしたが、エドガーとユリウスの邪魔が入り、間に合わない。ノアは、ロゼリアの「消して」という言葉に、「静かに見守る」という献身すら否定されたと悟り、絶望の叫びを上げた。
ロゼリアは、「誰からも愛されない匿名性」という名の自由を手に入れるため、情報屋の支配という、最も静かで最も深い檻へと自ら足を踏み入れた。




