第三十二話:終結 — 王権という名の檻(エドガーエンディング)
ロゼリアのエドガーの選択と、五人の独占者の運命を情報として差し出すという取引は、シリルにとって最高の対価となった。
シリルは、ロゼリアの要求通り、この事件を「王太子妃となるロゼリアを狙った国際的な陰謀」として処理し、エドガーの権威を回復させた。この事件の全ての情報は、「国家の安全を脅かす機密」として、王室とシリルの管理下に置かれた。
「ロゼリア嬢。貴女が選んだ『支配』の対価は高くつくぞ。この瞬間から、貴女の人生はエドガー殿下という、最も強大な独占者によって国家の象徴として扱われる」
シリルは裏社会のネットワークを情報源として公的に認めさせ、王室の「情報顧問」という形で、権力の中心に食い込んだ。エドガーは、ロゼリアの魔力と情報独占力を王室の威厳を保つために利用することにした。
ライナス・グレイ騎士は、王命ではなくロゼリアの命を選んだ忠誠心と、裏路地での暴力沙汰を理由に軍事刑務所へ投獄された。彼は、「王族への裏切り」という最も重い罪を問われたが、ロゼリアの取引により命は救われた。彼は王室という巨大な権力に敗北し、ロゼリアへの忠誠だけを燃料に、冷たい独房の中で孤独に独占を続けた。
ユリウス・エルド侯爵令息は、魔導具の盗難と、今回の失踪事件の「国家機密漏洩」を理由に、魔術庁の厳重な監視下に置かれた。ロゼリアの魔力を研究する自由は完全に奪われ、「国家に奉仕するための研究」のみを命じられた。彼の知性は、エドガーの支配構造を維持するためだけの道具となった。
ノア・ディンは、裏路地での暴動と王族への危害を理由に公開処刑される運命だった。しかし、ロゼリアの取引により、「国家の秘密を知りすぎた人間」として、顔と名を剥奪された上で、王室の辺境の地下牢に終身幽閉された。彼はロゼリアに会うことも、声を聞くことも許されず、光のない暗闇の中で、ロゼリアへの純粋な愛だけを抱き続けるという、最も残酷な罰を受けた。
ロゼリアとエドガーは、王都の壮麗な王宮で暮らしている。ロゼリアは**王太子妃(後に王妃)**として、完璧な地位を手に入れた。
ロゼリアの生活は、「国家の象徴」として完璧に管理されている。彼女の言葉、ファッション、振る舞い、全てが王国の威厳を保つために計算され尽くしている。
エドガーの独占は、支配欲と王権という名の絶対的な拘束だった。
「ロゼリア。明日の公務は、王国の歴史に関するスピーチだ。貴女の私的な感情は、国家の利益の前では無価値だ。完璧な王妃を演じろ」
エドガーはロゼリアの命の安全を保証するが、それは「自分の完璧な所有物」として守る、ということに他ならない。彼はロゼリアの孤独や苦悩には一切関心を払わず、彼女を「最も美しく、最も冷たい装飾品」として扱う。
夜。ロゼリアが王妃の寝室の豪華なベッドに座っていると、エドガーが王冠を外したまま現れる。
「ロゼリア。貴女の公務は完璧だった。貴女は、私だけの、最も優秀な王妃だ」
エドガーはロゼリアの頬に、所有権を確認するような冷たいキスをする。
「愛しているぞ、ロゼリア。貴女の存在は、この王権を永遠に確固たるものにする。貴女は、私だけの最も尊い宝として、永遠に王宮の中に存在し続けるのだ」
ロゼリアは、その美しい瞳に映る支配的な愛を、静かに受け入れた。
(私は、最高の安全と支配を手に入れた。けれど、それは、エドガー様の王権という最も冷たい檻の中でしか存在しない。私は、私の命への渇望によって、この最も社会的独占に永遠に絆されたのね……)
王権という名の檻は、ここに結末を迎えた。




