第二十一話:帰還の絶望と、シリルの囁き
ロゼリアがユリウスへの協力を選択してから数日。異界での生活は、ノアの完璧な献身と、ライナスの圧倒的な防御力によって、「極度に安定した密室」と化していた。
しかし、ロゼリアの心は晴れなかった。彼女の「絆されたふり」は、ユリウスの狂信的な研究を加速させ、エドガーの嫉妬を燃え上がらせ、ライナスの血の献身**を深めるだけだったからだ。
ロゼリアの魔力データと異界の法則を組み合わせた研究は、順調に進んでいるように見えた。だが、ユリウスの表情は日を追うごとに険しくなっていった。
ある夜、ユリウスは焚き火の前で、ロゼリアに冷徹に告げた。
「ロゼリア嬢。転移の数式は完成した。貴女の魔力があれば、理論的には元の世界に戻れる」
ロゼリアの瞳に、一瞬の希望の光が宿った。
「では……」
「だが、不可逆だ」ユリウスは遮った。
「この異界の魔力は、元の世界には存在しない物質と結びついている。帰還するには、元の世界から特定の希少な魔導具、あるいは過去の実験データを転送し、この異界の法則を強引に上書きする必要がある」
ロゼリアの希望は一瞬で打ち砕かれた。この異界で、外部との通信手段など存在しない。
「つまり、元の世界から特別な知識を持つ誰かが、私たちの救出を試みなければ、ここは永遠の檻だ」
ユリウスの告白は、ロゼリアだけでなく、エドガーとライナスにも重い絶望をもたらした。彼らの武力や献身が、「帰還」という最大の目的には無力であることを示したからだ。
ノアだけは、この絶望的な状況に静かな優越感を抱いていた。
(ロゼリア様。外の世界は、貴女を殺そうとする支配と、奪おうとする煩雑さに満ちています。この異界こそ、私とロゼリア様だけの永遠の平穏なのです)
ノアは、ロゼリアのために熱いスープを差し出し、彼女の疲れ切った心に「生活の安定」という名の依存を刷り込んだ。
一方、エドガーは完全に理性を失っていた。
「くそっ!私は王族だぞ!私が知らぬ知識などあってたまるか!この場所で、私の武力が役に立たぬというのか!」
エドガーは嫉妬と無力感から、異界の植物を剣で切り倒し、「支配」という本能的な行動を暴発させた。
ロゼリアは、この状況で「救いの手」となり得る唯一の存在を思い出した。情報屋シリル・ジェットブラックだ。
(シリル様なら…ユリウス様が必要としている「特別な情報」、あるいは「魔導具」の出所を知っているかもしれない。彼は、常に世界を外から観察し、知識で全てを支配する男だ)
ロゼリアは、ユリウスに近づき、小さな声で尋ねた。
「ユリウス様。元の世界に、裏社会の情報を通じて王城の極秘研究データを盗み出せるような人間がいるとしたら…その人物は、この数式の答えを知り得るでしょうか?」
ユリウスの瞳が、ロゼリアの問いに冷たく光った。
「……可能性はゼロではない。その情報屋が私の理論を理解できるだけの知性と、行動力を持っているならば、話は別だ。だが、彼は必ず対価を求める。貴女の運命を対価としてな」
ロゼリアは、恐怖を感じながらも、生存のため、そして帰還という最後の平穏のために、シリルに全てを賭けるという、究極の選択を心に決めたのだった。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
物語は終盤に向けて、ロゼリアの決断が近づいてきています。
ヤンデレでヤンデレを制することはできるのか?
ヤンデレ五人衆それぞれのエンディング(個別マルチエンディング)に向けてひた走っております。
もちろん逆ハーレムエンディングも準備しております!
最後までどうぞよろしくお願いします。
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