第二十話:最初の選択と、嫉妬の炎上
ロゼリアの心は、四人の独占者たちが繰り広げる狂気の生存競争を前に、冷徹な分析を始めていた。誰も彼女の願いを聞かないのなら、彼女は最も生存に有利な道を選び、「絆されたふり」で生き残るしかない。
(この異界の仕組みを理解することが最優先。帰還の可能性、危険の予測。そのためには、知識と魔力に長けたユリウス様を頼るのが最も効率的だ)
ロゼリアは、身体の疲労を無視し、冷たい土の上で奇妙な模様を書きつけているユリウスに声をかけた。
「ユリウス様。私も協力します。この異界の法則を解明することが、私たちが殺されないための唯一の道です」
ロゼリアのこの言葉は、四人の男たちにとって、極めて重い意味を持っていた。ロゼリアが、命の危機に瀕して最初に頼った男、それがユリウスだったからだ。
ユリウスは、ロゼリアからの自発的な協力を示す言葉に、理性を超えた歓喜を覚えた。
「素晴らしい、ロゼリア嬢! 貴女の才能は、とうとうこの狂気の現実を前に、私の理論を受け入れた。さあ、貴女の魔力のデータを取らせてもらう。貴女が私に依存すればするほど、貴女の才能は解放される!」
ユリウスの瞳は、恋人を見るそれではなく、世界で最も価値のある発見を見る熱狂に満ちていた。彼の独占欲は、ロゼリアの魔力の才能へと完全に特化された。
その光景を見ていたエドガーの顔は、怒りと屈辱で真っ赤に染まった。
「ロゼリア! 貴様、何をしている! 知識など、この状況では何の役にも立たない戯言だ! この異界で最も重要なのは、私の武力による絶対的な防御だ! 貴女は、最も危険度の低い私の側を離れるな!」
エドガーは、王権という支配の道具を失った今、肉体的な強さでロゼリアを囲い込もうと必死だった。ロゼリアが自分の命をユリウスの知性に預けたことが、彼の支配欲を最も刺激した。
しかし、エドガーの動きを、ライナスが静かに遮った。
「殿下。強制的な支配では、ロゼリア様の恐怖は消えません。ロゼリア様が自ら選択された道を、私は否定できません」
ライナスは、言葉ではユリウスへの依存を容認しながらも、その行動は完全に矛盾していた。彼は、ロゼリアとユリウスの周囲を、血に塗れた剣を携えて警護し始めた。
(ユリウスごとき無力な研究者に、ロゼリア様を命の危険に晒させてなるものか。ロゼリア様が彼を頼るというのなら、私は彼ら二人ごと、命を賭けて守り抜く。それが、私の新たな献身だ)
ライナスの独占は、ロゼリアを直接守るという、最も物理的で恐ろしい献身へと昇華された。
ノアは、ロゼリアがユリウスを選んだことに、感情的な動揺は見せなかった。しかし、その瞳の奥には、深い優越感と静かな怒りが宿っていた。
(ロゼリア様は、「生存」のためにユリウス様の「知識」を選ばれた。しかし、それは一時的なものです。ロゼリア様が本当に必要としているのは、命を繋ぐ日常の安らぎ。私が、ユリウス様よりもロゼリア様の身体と心に、より深く依存させる環境を整えればいい)
ノアは、ユリウスとロゼリアから少し離れた場所で、より居心地の良い寝床と、より美味しい獲物の調理に取り掛かった。
ノアの独占は、「ロゼリアの生活と精神」という、最も根源的な安心感を握ることに特化された。
ロゼリアの最初の選択は、この異界での独占者のヒエラルキーを決定づけ、ユリウス、エドガー、ライナス、ノアの四人による、「ロゼリアの心を奪い合う泥沼のサバイバル」を本格的に開始させたのだった。
クライマックスまであと少しになってきました。
ヤンデレ四重奏の泥沼化も激しくなっております。
ヤンデレの先頭を切っていたエドガーですが、ここにきて失速気味です。
最期まで全力疾走しますので、どうぞよろしくお願いします。
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