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第十九話:生存競争と、密室のヒエラルキー

 ロゼリアの魂の叫びが空間に響いた後、異界の森には重い沈黙が訪れた。四人の男たちの心は、ロゼリアの「殺されたくない」という真実を、それぞれの歪んだ愛の理論で再構築することに忙しかった。



 誰もが「ロゼリアの安全こそが自分の独占の鍵」だと確信したため、彼らは一時的に「ロゼリアを守る」という共通の目的で、緩やかな役割分担を始めた。


 最初に動いたのは、ノアだった。彼はロゼリアの側に跪き、汚れた手を拭った。


「ロゼリア様。どうかご安心ください。貴女の平穏は、この異界でも私が必ず守ります。まずは、夜露を避ける場所を探しましょう」


 ノアの献身的な日常の継続こそが、ロゼリアに「まだ生きている」という感覚を与える唯一の救いだった。


 次に、ユリウスが立ち上がった。彼は異界の奇妙な植物や空気の振動を調べ始めた。


「この空間は、我々の世界とは異なる法則で満たされている。ロゼリア嬢。貴女の魔力は、この異界の構造と深く結びついている可能性が高い。生存のためにも、私に協力して魔力データの採取を許可しろ」


 ユリウスの理性を超えた探求心は、彼が「生き残る」ための最も有効な手段となった。


 エドガーは、屈辱に顔を歪ませたまま、周囲の警戒に当たった。王権という武器を失った彼は、その肉体的な強さでロゼリアの独占権を主張するしかなかった。


「私が貴女を命懸けで守る。貴様らのような道具や情報に頼る必要はない。ロゼリア、貴女は私の側を離れるな」



 ライナスは、ロゼリアの「殺されたくない」という告白が、自分に向けられた最大の非難であると理解していた。彼は一歩もロゼリアに近づかず、異界の森の奥深くに、一人で狩りに出た。


 数時間後、ライナスは異界の魔物を倒し、その肉と毛皮を携えて戻ってきた。彼の全身は再び返り血に染まっていたが、その琥珀色の瞳は静かだった。


 彼は、ノアが火を熾した場所へ獲物を置き、ロゼリアから最も離れた場所で、静かにエドガーとユリウスの行動を監視した。


(ロゼリア様は、私を恐怖の対象だとおっしゃられた。ならば、私は恐怖そのものを排除し、ロゼリア様にとって最も安全な場所となる。他の者たちが言葉で平穏を語るのなら、私は命と血で絶対的な安全を証明する)


 ライナスは、ロゼリアの恐怖を理解した上で、その恐怖を克服させるほどの圧倒的な献身を誓った。



 ロゼリアは、四人の男たちが繰り広げる「独占のための生存競争」を、冷めた瞳で見つめていた。


 エドガーの支配、ユリウスの利用、ノアの隔離、ライナスの血濡れた献身。誰の愛も、彼女の望む「平凡な平穏」ではなかった。


 しかし、この異界で生き残るためには、誰かの力が必要だった。彼女は、疲弊した身体に鞭を打ち、生存戦略を立て始めた。


(私が死なないために、最も有効なのは誰の力? エドガーの武力? ユリウスの知識? それとも……ノアの献身的な配慮?)


 ロゼリアは、誰も彼もが的外れな独占者であると知りながらも、この状況で最も危険度の低い独占者を選び、「絆されたふり」をして生き残らなければならないという、究極の選択を迫られたのだった。

ここまでお付き合い頂きありがとうございます!

ロゼリアの選択の時が近づいています。

……ヤンデレの中でヤンデレを選ぶ苦悩、ハードな展開です。

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