第十八話:異界の密室と、魂の告白
空間転移の激しい光の奔流が収束し、ロゼリアが目を覚ますと、そこは全く見知らぬ場所だった。
冷たい土の感触。周囲は奇妙な形状の植物が生い茂る森のようで、空の色は、故郷の王都で見たどの空とも異なっていた。魔力の奔流で力を使い果たしたロゼリアの身体は、鉛のように重い。
傍らには、エドガー、ノア、ユリウス、そしてライナスが、それぞれ倒れ伏していた。彼らは転移の衝撃で意識を失っているか、激しく混乱している様子だった。王太子エドガーは、王権の象徴である乗馬服を泥まみれにし、無力な姿を晒していた。
ロゼリアは、この異界の地にまで、自分を追ってきた男たちを前に、心に溜め込んだ全ての絶望と恐怖を爆発させた。
「もう皆、いい加減にして!!」
彼女の叫び声は、異様なほど静かな空間に、鋭くこだました。
ロゼリアは震える身体で立ち上がり、意識を取り戻し始めた四人を、涙と怒りに満ちた瞳で見据えた。
「あなた達、それぞれ勝手に私のことを決めつけてるけれど、誰も彼も的はずれなのよ!!」
その言葉で、四人の男たちは動きを止めた。彼らがロゼリアの完璧な仮面ではない、感情的な怒りを向けられたのは初めてのことだった。
「エドガー様は、私のことを『支配すべき所有物』だと、ユリウス様は、私の魔力を『研究すべき鍵』だと、ライナス様は、私の孤独を『守るべき大義』だと、ノアは、私の人生を『隔離すべき聖域』だと決めつけた!」
ロゼリアは、彼らの歪んだ愛を、全て否定した。
「私は、あなた達が思うような高潔な才能の持ち主でも、孤独な戦士でも、支配されることを待つ道具でもないのよ!」
彼女は、力を振り絞り、最も聞かせたかった真実を告げた。
「私は、あなた達に殺されたくないだけなの。そのためだけに頑張ってきたのよ!!」
その魂の叫びが空間にこだまする。それぞれの思惑でロゼリアを支配しようとしていた四人だったが、正直で感情的な怒りをぶつける彼女に、一瞬、沈黙するしかなかった。
ロゼリアの告白は、彼らの心に激しい動揺をもたらしたが、彼らの独占的な執着を打ち砕くことはなかった。むしろ、彼らの歪んだ愛をさらに狂信的なものへと変質させた。
エドガーは、ロゼリアの恐怖の対象が『自分たち』であることに、衝撃を受けた。
(……殺される? 彼女は私に? なんと愚かで脆い。私ほどの力を持つ者が、なぜこの華奢な娘を殺す必要がある? 彼女は、私から離れれば世間に殺されることを理解していない! この場で、王権という道具を失った今こそ、彼女が私に頼らざるを得ない状況を作り出す)
ライナスは、自分の血塗られた献身がロゼリアを怯えさせていたことに気づき、深い自己嫌悪に陥った。
(私は…ロゼリア様の守護者ではなく、恐怖の対象だったのか。しかし、『殺されたくない』という彼女の願いこそ、私が今すぐ叶えるべき唯一の平穏だ。この異界で、命を賭けて彼女を守り抜くことこそ、私の愛の証明だ)
ユリウスは、ロゼリアの感情的な爆発と空間転移が直結していることを確信した。
(素晴らしい! 生存への切実な恐怖こそが、彼女の魔力の真のトリガーだ! 彼女が『殺されたくない』と願う限り、彼女の魔力は爆発的に増幅する! この異界で、私は彼女の魔力と精神を極限まで追い込み、究極のデータを手に入れる)
ノアは、ロゼリアの告白に、静かな優越感を抱いた。
(ロゼリア様は、私に『支配』や『利用』という言葉を使わなかった。私の献身は、他の者たちとは違う。ロゼリア様の『平穏』を奪うのは、この世界の全てだ。私は、この異界で、誰にも見つけられない、ロゼリア様だけの新しい世界を、私と共に作り上げなければならない)
ロゼリアの告白は、彼らの独占欲の炎に油を注ぎ、「異界サバイバル」という新たなステージで、それぞれの愛の形を競い合わせることになったのだった。
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異世界の途絶した空間でヤンデレが激化していきます。
ヤンデレ四重奏のなれはてに向かってひた走ります。
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