第十四話:王城の檻と、共闘する独占者たち
ロゼリアが目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。
柔らかな天蓋、上質な絹のシーツ。しかし、その豪奢な調度品にもかかわらず、窓には細い鉄格子が嵌め込まれていた。ここは王城の一室、それもエドガー王太子が私的に管理する区画だった。
ロゼリアは、自身の平穏への努力が、ついに「王太子の檻」という形で結実してしまったことに絶望した。
「ああ、目覚めたか、ロゼリア」
声の主は、エドガーだった。彼は優雅なソファに座り、ロゼリアを獲物を見るような熱い瞳で見つめていた。
「貴女は、公衆の面前で意識を失うという失態を犯した。そして、ライナスに危険な魔力暴走の秘密を流した。これは王室の威厳を著しく傷つける行為だ」
ロゼリアは言葉を失った。エドガーの解釈は、あまりにも歪んでいた。
「貴女が私から離れようと画策しているのは知っている。シリルという情報屋、ユリウスという学術的な誘惑者、そしてあの裏切り者のライナス。貴女は、私の手を離れ、より自由に、より大きな力を得ようと足掻いている」
エドガーは立ち上がり、ロゼリアのベッドサイドに跪いた。その顔には、支配欲と歪んだ愛情が混ざり合っている。
「もう心配しなくていい。この部屋から、貴女は二度と一歩も出られない。貴女の秘密も才能も、その脆い心も、全て私が管理し、守り抜く。この王城こそが、貴女の永遠の平穏だ」
エドガーの「軟禁」という行為は、ロゼリアの平穏という目標を完全に打ち砕き、彼女を私的な独占物として確定させた。ロゼリアは、前世の断罪よりも恐ろしい、未来永劫続く孤独な支配を悟り、全身から力が抜けていくのを感じた。
その頃、王城の外では、ロゼリアの危機を察した二人の男が、利害の一致から協力を開始していた。
一人は、侯爵家の使用人、ノア・グリーフ。
もう一人は、魔法院の天才、ユリウス・クリス。
ノアは、ロゼリアの「孤独な弱さ」を目の当たりにし、純粋な保護欲で燃えていた。
「ロゼリア様は、あの王太子の支配に怯えていらっしゃる。私は、主人を救い出し、誰も届かない場所で守り抜く」
ユリウスは、ロゼリアの「規格外の才能」が、エドガーの「凡庸な支配」によって封じられることを何よりも恐れていた。
「ロゼリア嬢の魔力は、この世界の真理を解き明かす鍵だ。王太子の如き愚か者に、その才能を私物化させるわけにはいかない」
目的は異なるが、「ロゼリアをエドガーの支配から解放する」という一点で、二人の独占者は利害が一致した。
ユリウスは、王城の結界を無力化するための魔導技術を提供し、ノアは、侯爵家と王城の内情と私的な抜け道を提供する。
「ノア。貴様の目的は、ロゼリア嬢の保護か」
「貴方の目的は、ロゼリア様の才能か、ユリウス様」
二人はお互いの異常な執着を理解しつつも、冷徹に手を組んだ。彼らにとって、エドガーの支配は「ロゼリアの奪還」という共通のミッションを生み出したのだ。
「奴は、ロゼリア嬢を王城の檻に閉じ込めた。我々はその檻を破る。ロゼリア嬢の才能と心、どちらが先に独占権を得るか、競争だ」
「望むところです、ユリウス様。ロゼリア様の本当の居場所は、私だけが提供できます」
こうして、王太子による「物理的な独占」に対抗するため、ノアとユリウスによる「協調による奪還」という、さらに泥沼化した戦いの幕が上がった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ヤンデレ王子がとうとう軟禁という手段を取りました。
ロゼリアの受難はまだまだ続きます…他の攻略キャラたちも黙っていませんので。
引き続きよろしくお願いいたします。
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