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1.5 遊園地③

あいにく、居酒屋が多く立ち並ぶ駅だったので、元の駅に戻って仕方無しに決めた居酒屋に入り、少量の酒としっかりとご飯物を食べながらも遊園地の出来事を互いに思い返して話していれば、もう夜も遅い時間になっていた。

相当話したな、と思いながら店をでて、食後の運動として適当な道を歩く。

そこは、街頭もあまりない住宅街の道路。歩く通りには公園もあるらしい。


「ガチの肝試し行っとく?」

「もういいって。また頭ケガするぞ。」

「俺マジでレイと分かれてからの記憶ないんだよね~ケガしてるのもびっくりした。」


公園のことを聞いて、時間も相まった集夜が余計な提案をしてくるが、遊園地であったことを思い出してちゃんとやめさせる。

集夜は遊園地の肝試しで起きた、自分がケガをした理由の部分を何も覚えていないらしく、居酒屋で話したときも不思議そうな顔をしていた。

そこの記憶も無いなんて、とは思ったが、別にあっても無くても変わらないだろうから詳しくは話さなかった。

集夜も詮索はしてこなかったので気にしていないんだろう。

そうしているうちに、件の公園にさしかかった。

公園も、街頭がちゃんとしているかと思いきや電気が切れているもの、明滅しているものが複数あって整備のされてなさが伺える。


「…なんかきこえた。」


通り過ぎようとした時、集夜がピタっと足を止めた。

真剣な顔を公園の方に向けて、何かが聞こえたと口にした。

俺も耳をすますが何も聞こえない。

聞き間違いじゃないのか?と言い出そうとしたが、集夜は自身の赴くまま、公園内に足を踏み入れ進んで行った。


「集夜まて!」


また、警察かつ猪モードに入ったと見れる集夜を止めようと追いかけるが、こうなった以上、集夜は止まらない。

ある先を見れば、集夜の向こうに人影が複数見えた。

知らない男性、知らない女性。それと、前に見たおっさんと白髪の男。


「何されてるんですかー?」


集夜は至って普通にその集団に声をかける。

よく見れば、知らない男性はナイフ、知らない女性はカッターを手に持っていた。

そして、集夜を見たことで安心したような顔をして、両手を上げていたおっさんが手をおろした時、知らない男性がおっさんにむかって ナイフを持つ手を振り上げて下ろそうとしていた。

それをおっさんは見事止めた。

知らない女性の方も、カッターを持つ手を振り下ろそうとしていたが、後ろにいた白髪の男に止められている。


「ちょっと!何してるんですか!」


そう声をあげた集夜は、刃物を持つ相手2人に対してそのまま近づいた。

まずいと思い、走って駆け寄る。

見間違いであれとおもったが、知らない男性はナイフ、知らない女性はカッターを持っていた。

せっかくの非番の最後にコレかと思いながら、バックから警察用携帯を出して電話をする。


『はいこちら』

「特殊課救援対応部の田中です。刃物をもった男女がいるので数名きてくれませんか?」

『…ご自身で対応できるのでは?』

「俺ら非番なの!!来て!えーっと…」


電話先は緊急で応援が必要な時だけにかける場所。

相手が名乗るのを遮って数名人間をよこしてほしいことを伝える。

大抵「捜査第一課」の応答にしか答えないので俺等のような課の応答には答えたくないんだろう。

少し間を置いて自力対応をしろと言われたし業務もできるが、非番でそんなことまでしたくない。ちゃんと申請書も出したのに。

横目でみれば、集夜が女性の方を取り押さえて白髪の男から離している。

さすがにそれくらいはしないとか、と場所と女性の警察官もほしい旨を伝え電話を切り、男性の方をおっさんから離して取り押さえる。

手錠も持ってない今、腕っぷしだけが頼りだが、一応市民である彼らからは遠ざけたほうが良いだろう。

しばらくして、ちゃんと俺の要望通り警察が女性もあわせて数名やってきて、俺と集夜から2名を引き継いで連行されていった。

数名現場に残り、事情聴取のためおっさんと白髪の男に事情聴取をしていた。

それらはすぐに終わって、一礼をした警察は全員帰って行った。


『いやぁ…まさか警察さんが来てくれるなんて。』

「声が聞こえたので。寄ったらまさか…」

『ご面倒おかけして申し訳ないです。』


様子を見るために残っていたら、おっさんの方から声をかけられた。

集夜がそれに応対していれば、白髪の男が謝罪をした。

非番ではあったが、集夜が何かしらの声を拾ったおかげで危ないものを持った2名から2人を守ることができたのだ。

謝られる必要はない。


「いえ!非番なのに動いたコイツが悪いんで大丈夫ですよ。」

「いたい!危なかったんだもん。」

『まぁ、おかげで助かったので。ありがとうございます。』


なので、俺からその謝罪を否定するとともに、集夜のリュックから見えている背中を強めに叩く。

そうやったって集夜は自身の行動に否は無いと言うし、実際に否はない。むしろ勇敢だ。

だから、おっさんもヘラリと作り笑いをしながら感謝を伝えてきた。

事情聴取の際に聞こえたおっさんの職業「探偵」。

そして今回の仕事内容。

『ストーカー被害の案件を2件同時にしていて、偶然互いがそのストーカー同士であり、激昂してあんな風になった』

とおっさんは言った。

白髪の男と2人でやってるならまぁ、2件同時にこなそうとするのもわかる。

ただ、同じ案件で?男女のものを?

もし、その男女から容姿の情報を聞いていて双方が合致していたとしたら?

今回、互いに合わせて面通しのようなことをさせたとしたら?

それは偶然になりうるのか?この現場を生んだのは必然では?


「それじゃあ、俺等は失礼しますね。」

『はい。お気をつけて。』


そう考えていれば、集夜が帰ろうとして、挨拶を互いにし始めた。

ひったくり事件で顔を合わせて、ここでも顔を合わせて。

世間は広いはずなのにどうにも縁は千切れないらしい。

なら、何が起きても良いように、対処ができるようにしてしまおう。

そのためにはまず情報を集めないと。


「あの。」


帰ろうとする集夜を横に、逆におっさんに声をかける。

おっさんは何も返さず、表情だけで疑問を伝えてきた。


「あなた、探偵なんですね。」

『そう…っすね。』

「名刺とかありますか?」

『あぁ、ありますよ。…はい。』


先程の事情聴取の情報を聞いていたと言うように、おっさんの職業を改めて確認する。

おっさんは記憶を思い出しながら、それを肯定した。

事情聴取の際、名刺を渡しているのも確認している。

だから、情報の1つとして受け取れないかと尋ねる。

すれば、ポケットを漁ったおっさんは、1つのケースを取り出してそこから1枚、名刺を渡してきた。

何の変哲もないおっさんの名前と、探偵事務所の名前。

それと電話番号。

白と茶色だけで構成されたシンプルすぎるおしゃれ味も何もない名刺。


「ありがとうございます。それじゃ、お気をつけて。」


それを笑顔で受け取ってバックにしまいながら、感謝を伝えて集夜と同じ挨拶をする。

1つ情報が手に入った。

おっさんは少し間を置いて、作った笑顔を貼り付けながら白髪の男と自身の帰り道へ歩いていった。

俺と集夜はそれを見送った。


「…名刺なんかもらって何すんの?」

「情報だよじょーほー。何かに使えるかもだろ?」

「探偵さんにぃ?」

「頼ることもねーけどな。」


相手が見えなくなって、一言も喋らなかった集夜が名刺の使い道を尋ねてきた。

素直に、情報だということを伝えれば、探偵業のことをあまりわかってないであろう集夜は、俺が探偵を使うことをしようとしているのかと疑問視した。

そんな、探偵を使うことなんざないだろう。だから否定をして、先に公園にきた道に戻る。

後ろから、集夜の走る音が聞こえ、公園からしばらく歩いた道で互いの帰路に向かうべく分かれた。


数日後、出勤した俺の机の上に1枚の紙が置いてあった。

それは、以前に俺が出動要請を出した殺傷未遂事件の内容で、捕まえた2名は互いに他の相手にも同じようなことをして、行政から厳重注意を受けている最中での出来事だったそうだ。

厳重注意から動向が変化しないことから、今回しっかり刑事罰を受けることになった、というのが記載されており、面倒なことにそれを事件の被害者、及び目撃者であるおっさん達に説明しろと記載されていた。

ご丁寧に名刺から取ったであろう事務所の連絡先とおっさんの名前が記されていて、これを出したのも「捜査第一課」の面倒な上司であることが記載されていた。


「おはよーございまーす。鈴木隼夜、対応可能でーす。」

「おはよ…」

「うわぁ。朝から面倒くさそうな顔してるね。」


出勤した集夜の声がして、紙から顔を集夜の方へ向ける。

集夜は隣に荷物を起きながら、俺の顔を見た感想を教えてくれた。

そらそうだろう。誰だってこんな面倒事したくない。

だが、こう置かれている以上、「救援対応部」としてやれるならやらなくてはいけない。

たかが電話だ。サッと伝えて終わろう。

椅子に座って警察用の携帯を取り出し、電話のキーパットを開く。

事務所の電話番号を入力し、電話をかけるボタンを押せば、コールが鳴り、数コールでもって接続音がした。


『はい。こちら探偵事務所「時間」です。』

「もしもし。私警察の田中玲馬と申します。以前、公園でお会いした警察です。」


おっさんの名乗りに笑いをこらえつつ、俺は事件の事情をざっくりとだけ説明した。

隣で聞いている集夜が余所行きの話し方をしている俺を見て笑っていたので、電話の後に一発殴っておこうと心に決めた。

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