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1.5 遊園地②

ゴーカートにバイキング、今度は長いジェットコースターに乗ったり、その後はコーヒーカップでバカみたいに早く回したり。

それで、気持ち悪くなったし腹も減ったしで円の真ん中のレストランでお昼ご飯を食べたり。

その次は、後に回せと言ったのに水に濡れる系で。

濡れる面積はできるだけ少なくしようと、売られているレインコートを着て乗ったり。おかげでそんなに濡れずに済んだ。

そうこうしているうちに、時間は16時になっていた。


「じゃあ次は、お化け屋敷!」

「お化け屋敷ね。」

「何、怖い?」

「怖くねーよ別に。確認しただけだろ。」


集夜が次のアトラクションを指定する。お化け屋敷「ホーンテッド・ミッション」。

口に出したことで集夜に怖いかどうかを聞かれたが、どちらかで言えば全然怖くない。

ガチで怖くしたって、結局は「怖い」と感じるだけで、死ぬほどの「恐怖」は感じないだろう。

それで言えば集夜だって怖くないだろう。ただの遊び。肝試し。

本当にそうなのだが、集夜は俺が強がって言っているように見えたんだろうか、笑っている。

この際なんでもいい。どれだけ肝が試せるか見てみよう。

丁度あまり並んでないタイミングだったからか、お化け屋敷はすんなりはいることができた。

荷物などは預けず、機械にバンドを通して入場する。

入場すれば、案内板が立っていて、「矢印の方向へ進め」と合ったので指示通りに進む。

昔の日本家屋が舞台なんだろう。全体的に古く見れるように作られていて、壁が多少剥がれているし、障子には小さい穴が空いていて、御札もどきまで貼られている。

アトラクション名にもなってる「ミッション」に関する説明するためだろう。

通路と同じく古めかしいし、障子の穴があきすぎているが、蛍光灯はしっかり光っている部屋の前で矢印は止まっていた。

部屋は畳で、靴を脱いで座らされる座布団も薄い。

説明するのは人ではなくアナログテレビかつVHS。

これから始まるアトラクションの楽しみ方について流れている。

最後に、恐らくミッションに関係するような心霊映像のようなものが流れ、蛍光灯の電気が消えた。

そして、VHSの向こうの障子が勝手に開いて、先に行くよう促しているようだった。


「…行く?」

「行かないとでしょ。」


集夜がとぼけたことを言うので立ち上がりながら促しに乗る。

集夜も立ち上がったのを見て、靴を履いて先に歩く。

アトラクションとしては、ミッションをクリアする以外単なる肝試し。

血の跡、血糊の跡があるからそれを頼りに歩き、ミッション、儀式を完遂させて屋敷を出ろ。

ただそれだけ。

儀式は、2手に分かれて片方は御札、片方は勾玉を探して、一箇所に集めて終わり。

ミッションに関しては完全に2手に分かれる関係上、青い色の目印があるのでそれを頼りに探すらしい。


「…ちょっと怖くなってきた。」

「嘘でしょ早すぎ。」

「雰囲気に押されるのあるでしょ?」

「ウケる。」


弱い電球の光がちらつく通路を先に歩けば、後ろを歩く集夜がらしくないことを言い出した。

意外とそんなことを思うのかと驚けば、苦笑いで普通のことを理由付けした。

警察をしてて死ぬより怖いことなどなんてあるのか、意外と普通の人である面を見ることができた。

警察をしていたら銃撃場にアホみたいに突っ込んでいくし、上に嫌味を言われても気にしないくせに。

当時のことを思い出していたら、目の前に人が現れた。


「わ」

「!」


…これは集夜を前に歩かせていたほうが、キャスト的にも面白いだろう。

そう判断して、強制的に集夜を前にして進ませる。

怖がってよく止まるので血糊を先に確認して指さしたり、背中を押したりした。


「まってまって!いるって前に!」

「いても行く!」

「レイが行って!」

「お前が行ったほうが面白いって!」

「知らないよ!ちょ、うわああ!」

「ハハッ!」


障子から伸びる手、急に掴まれる足、入った何でもない部屋で急に電気が消えて付いた時には人形の首だけが転がってたり。

そういう所に先に集夜が入って、声を上げてもらう。俺が入ったって何も感じないから意味がない。

それ以上に酷いものを目にしたこともあるから。本当に死ぬこと以外怖いことはない。

だから、ちゃんと怖がっている集夜に恐怖を押し付けられたり、その様子を見れるのがなんだか面白い。

そんなことでビビるなよ。

そうやって進んでいく内に、ミッションの場所についた。

部屋の中、木製の三宝が2つ置かれた机とその前にある紙。その奥には御札の貼られた障子があって、左右には別の通路につながる道が続いている。

紙には、「札と玉をここに」とだけあり、あのVHSを記憶してなければ何もわからないような書き方だった。


「どっち行く?」

「うえ~…これ分かれないとダメ?」

「ダメに決まってんだろ。」

「うーん…じゃあ、俺御札の方行こうかな。」

「オッケー。じゃあ俺は勾玉の方行くわ。」

「青いのに続けば良いんだよね?」

「そう。」

「わかった…行ってくる。


机の前でどちらがどちらに行くのかをすり合わせていれば、怖がっている集夜からこの遊園地のコンセプト破壊を促す言葉が出た。

思わず強い口調で否定したが、それは意に介さずに自分で行きたい方を決めた。

じゃあと俺は反対の方を行くことにする。

最後に、目的のものを探すためのヒントを確認して、一緒に行けないことを覚悟した集夜は決めた顔で左の通路へ歩いて行った。

暗がりに消えたのを確認して、俺も右の通路へ歩く。

そこも、あの部屋に来るまでと同じで散々客を怖がらせるような仕掛けを用意していた。

ビビる演技でもしようかと思ったが、休暇にそこまでする必要はないだろうと申し訳ないが変わらずに目的の物、勾玉を回収した。

来た道を戻って、集夜と分かれた部屋まで帰ってきた。

三宝の上に勾玉を置いて、集夜の行った通路の方を見る。

三宝に御札がないことから、集夜はまだ終わってないんだろう。

ここに来るまでのビビり様だったし、さんざんビビっているんだろう。

…別に、こっちが終わったんなら向こうに行ってもいいか?

バディなら、助ける必要があるだろ。そうだ。

そう言い聞かせて、集夜の入った通路へ向かった。


通路に入ってすぐ、ゾワリと寒気がした。寒いと言うか、冷たい。

凍るほどではないが、冷たさを感じる。

それに、ここに来るまでに仕掛けが何も作動しなかった。

集夜で全て作動している、という可能性はあるが、人感センサーで作動しているものもあるだろう、それすら反応しない。

なんだ。こんなの。

とりあえず、と集夜を見つけることを目的にした。

が、どれだけ通路を歩いても、部屋を除いても見つからない。

何か、俺の部屋より多くないか?通路、部屋も。

ここだけデカい作りなんだろうか。

…ここ最近で誘拐事件とかはないよな。この遊園地付近でも。

事前にそういうのも確認しておくべきだったか。今からでも警察用携帯で調べるか、と思っていた時。

十字路の通路に集夜がフラリと現れた。


「集夜!」


呼びかけるも、集夜は返事をしない。

ギリ見える顔も、さっきとはうってかわって虚ろで目的がない。

だらりとした腕の先にある手には、ミッションの目的であろう御札がしっかり握られていた。

少し十字路に立ち止まったと思えば、またどこかへ歩いて行ってしまった。

追いかければ、また少し先の通路で止まった。

どこに行くつもりだ。待て。どこに集夜を連れて行く気だ。

信じたくもないし考えたくもない。ゴースト要素が起こり得るなんて。

だが、「お化け屋敷」という都合上、あり得ない話でもない。

そういう話をするとそういうのがやってくるということもあるし。

だから可能性として頭に入れておいて損はないだろ。

こういうときは、どうしたらよかった?

…呼びかける、引き止める。とにかく、こっちに寄せる。

それが大事だって言っていた気がする。


「集夜!!集夜!!シュウヤ!!」


近寄りながら、迷惑になりそうなくらい大声で集夜を呼ぶ。

3度目の呼びかけで、別の通路に曲がろうとして一歩を進めた集夜が突然、こちらを向いた。

その一歩を踏み出した関係上、頭の位置が変わってしまった。

そのせいで、通路の壁というか柱というか。そこに思い切り頭をぶつけてしまった。


「集夜!?」


ぶつけた衝撃でか、集夜はグラりと体制を崩して、倒れかけたので支える。

顔を見れば、顔色は悪くなく、単に気絶しているだけのように見えた。脈もある。

変に頭をぶつけたのが良くなかったんだろうか。

何にせよこのままにしておけない。キャストを呼ぶにしてもアトラクション内だと難しい。

そう判断して集夜のリュックを体の前に持ち、集夜をおぶる。

気絶した拍子で落ちた御札を拾って、分かれた場所に向かう。

さっきまではあんなに長い通路、部屋数だったにもかかわらず、とてつもないほど短い通路、少ない部屋数で戻ってこれた。

持っていた御札を三宝の上に置く。

すれば、障子に貼られた御札が接着力を失ったみたいにペラリと落ちて障子が開いた。

ミッション達成。バディ1名ダウン。もう1名が行きているからギリセーフか。

開いた障子をそのまま進めば、ひときわ明るい光が見え、そこを目指してくぐる。


『お疲れ様です!無事脱出成功…』

「すみません。救護室とか、使えたりします?」


無事脱出できたようで、キャストがお決まりの言葉をかけてくるが、俺等の様子を見て言葉を止めた。

すぐさま、集夜を休ませれる場所、少なからずこういう施設ならあるであろう場所がないか尋ねた。

キャストは、慌てつつも無線で他のキャストと連携をし、俺等を救護室まで案内してくれた。

救護室は簡素にベッドと枕、介助人用の椅子のみで、人を休ませるためだけの部屋だとすぐに分かった。

ベッドに集夜を寝かせて、スニーカーを脱がせる。

脱がせたスニーカーをベッドを横において、椅子に座る。

変わらず顔色は普通。脈も、首を触ってあるのを確認している。

頭にぶつけた後だけ小さくあるが、生きてはいる。あとは目が覚めればいいだけ。

大丈夫。気絶してるだけ。時間は17時半。もう閉園まで30分。

お化け屋敷で随分時間を使ったみたいだ。

集夜から部屋にあった壁掛け時計に視線をそらしていた時、衣服の擦れる音がして集夜の方を向く。


「…て…まって、待って!!」

「うぉわ!」


向いたと同時に寝言のように集夜が言葉を吐いて、最後にひときわ大きい声上げて起き上がった。

起き上がるとは思わなかったので驚いて椅子から少し飛び上がった。

寝言的に夢を見ていて何かを追いかけていたんだろうか。

集夜も顔を驚かせて、走った後みたいに息を切らせていた。

それがだんだん落ち着いていって、通常の呼吸に戻っていった。


「大丈夫か?」

「あ…あぁ、うん…うん。大丈夫。レイは?大丈夫?」

「俺?」

「そう。お化け屋敷。一人で怖くなかった?」


落ち着いたタイミングで状態を伺えば、自己確認をハサミながら大丈夫だと言ってくれた。

そして続けて、俺に同じ言葉をかけた。

思わず聞き返せば、一人でお化け屋敷を歩かせたことへの心配をしているようだった。

こいつはお化け屋敷での俺と自分とを忘れているのか。頭をぶつけたことでそこら辺の記憶が飛んだのか。

どっちであれ、そんなことが言えるのであれば元気だろう。


「お…平気だよ。無事脱出して、お前をここまで運んだんだよ。」

「流石だねぇ。ありがとう。」

「大丈夫そうなら出るぞ。立てるか?」

「うん。平気。荷物も自分で持つよ。」


言い返す労力より合わせたほうが良いだろうと合わせた返しをすれば、いつも通りゆるく俺を褒めて感謝を伝えてくれた。

元気そうなのを見て立ち上がって救護室から出ようと提案すれば、大丈夫なようで、スニーカーを見つけて履いて立ち上がった。

そして、俺が持っていた自身の荷物を持つというので返せばそのまま背負った。

忘れ物もないのを確認して、部屋から出れば、ここまで案内していたキャストがドアの側に立っていた。


『大丈夫でしたか?』

「はい。ありがとうございます。」

「すみません。」

『いえいえ。元気になられたなら良かったです。ですがまた気分が悪くなったりしたらキャストにお声がけくださいね。』

「はい。」


キャストは丁寧に声を駆けてくれ、こちらの心配もしてくれた。

それに素直に返事をして、その場から離れる。

外はもうオレンジ色だった。


「…あ。ねぇお土産!」

「あー…いる?」

「いるよぉ!!買いに行こ!」


外の様子で時間をなんとなく察したのか、集夜はもうアトラクションに乗る気はなさそうで、突然お土産の話を持ち出した。

よくある、遠出したときに周りにあげる用の物。

あの人達のことを考えると合ってもなくても良いような気がするが、集夜は買いたい気持ちが先行しているみたいだ。

周りのアトラクションから、円の中心にそう遠くない場所だし、お土産を見て買うなら閉園に丁度良い時間だろう。

先を歩く集夜に続いて歩いて土産物屋に行き、ちゃんと閉園時間を認識した集夜が慌てて量の多い土産物を買ったのはおもろかったな。

土産物は集夜だけが買い、カバンに入れてメインゲートへ向かう。

出る際につけていたバンドをキャストへ返却して出たと同時に閉園アナウンスが流れる。


「あー…楽しかったなぁ…」

「俺も久々に、何かガキみたくはしゃいだわ。」


園から離れながら、互いに今日の事を思い出す。

子どもの頃。それこそ、ハイスクールの人らと遊んでた時。

こっそり学校を抜け出して、いろんな所に遊びに行って引くほど説教されたのを思い出した。

でも、それでもワクワクした、楽しかった記憶がある。

そんな時の記憶。


「ね。レイはいつもセーフティに動くから。」

「お前がアホみたいに突っ走るからだろ。」

「それが功を奏することもあるでしょ?」

「それはそうだけど。」

「じゃあ良いじゃん。それで事件が解決するならそれで。」


感傷に浸っていれば集夜が普段の俺の言動を言ってきたので、誰のせいだと釘を差しておく。

でも、集夜は自身のやっていることを変えようと考えることなどせずに良いことにつながると反論した。

それはそうだ。その向こう見ずはある種の勇気と捉えることもできる。

それを肯定してしまったら、集夜はそれでいいと結論付け、歩幅を大きくして俺の少し前を歩いた。

それで死んでしまったらどうするんだ。それで、いなくなってしまったら。

その時は、俺は俺を呪うだろう。


「あ、そうだレイ!戻ったら夕飯とろうよ一緒に!」

「ん、いいよ。どこ行きたい?」

「あんまごちゃごちゃしてない所が良いなぁ…って言ってもこの時間だとどこもごちゃつくか。」

「そうね。ま、普通に降りた駅近くの店にしよう。」

「そうしよっか。」


考え事をしている俺を気にしない集夜は、一緒に夕飯を食べようと提案してくれた。

このまま駅についてじゃあまた明日、でも良かったが提案をしてくれて断る必要性はあまりない。

なので了承してどこに行きたいかを尋ねる。

レイとしては静かなところが良いらしいが、言う通りこの時間帯はどこの店もごちゃつくだろう。

そこは運に任せるしかないと決めて、適当な場所にしようと提案する。

集夜もそれでいいと決めてくれたので、帰る電車内で駅近くの店を探した。

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