表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/77

第76話「温かい食事と戸惑いの夜」

 コン、コン。控えめなノックの音で、俺は目を覚ました。

 いつの間にか、ぐっすりと眠ってしまっていたらしい。身体の節々の痛みが、だいぶ和らいでいる。


「……ミナトさん? 起きてる?」


 ドアの向こうから、リリアの心配そうな声がした。


「ああ、今起きる!」


 俺は、慌ててベッドから起き上がり、ドアを開けた。


「よかった。あまりに静かだから、どこか具合でも悪いのかと思って」

「いや、すまん。ベッドが気持ち良すぎて、つい……」


 俺が頭を掻くと、リリアはくすくすと笑った。


「ふふっ。わかるよ。私も、こんなに落ち着ける場所、久しぶりだから。……あ、食事の準備ができたって。彼女が呼んでたよ」

「そっか。腹減ったな」


 二人で部屋を出ると、すでにグレイも起きていて、リビングのような広い部屋で腕を組んで待っていた。

 テーブルの上には、湯気の立つシチューと、焼きたてのパン、そして、彩り豊かなサラダが並んでいた。ダンジョンの中で食べていた干し肉とは、天と地ほどの差だ。


「すごい……。全部、あんたが作ったのか?」


 俺が尋ねると、キッチンから顔を出した黒髪の少女は、にこりと微笑んだ。


「ええ。口に合うといいんだけど。さあ、冷めないうちに、たくさん食べて」


 俺たちは、無我夢中で食事をかきこんだ。

 野菜の甘みが溶け込んだシチュー。外はカリカリで、中はふっくらとしたパン。

 どれも、信じられないくらい美味かった。


「……美味い」


 グレイが、ぼそりと呟いた。彼が、食べ物を素直に褒めるのを、俺は初めて聞いた。


「本当? よかったわ」


 少女は、心から嬉しそうに笑った。その笑顔には、玉座で俺たちを見下していた少女の面影は、どこにもなかった。


「なあ」


 食事を終え、ハーブティーを飲みながら、俺は少女に尋ねた。


「あんたは、ずっと、この村にいるのか?」

「ええ。まあ、研究のために、時々、遠くまで旅に出ることもあるけど。ここが、私の家だから」

「研究って……。あの、世界の理がどうとかいうやつか?」

「そうよ」


 少女の瞳が、途端に、きらきらとした好奇心の光を宿した。


「例えば、魔法って、どうして発動すると思う? 祈りや詠唱が、どうして、世界に影響を与えるのか。不思議だと思わない?」

「いや、俺は、そういう難しいことは……」

「私は、それを解き明かしたいの。この世界の、全ての法則を、この手で理解したい。それが、私の夢なのよ」


 夢を語る彼女の横顔は、あまりに純粋で、そして、力強かった。

 俺は、彼女が、あの「監視者」とは、全くの別人なのだと、改めて思わざるを得なかった。


 その夜、俺は、言われた通りに風呂にも入った。

 石造りの清潔な風呂。久しぶりに湯船に浸かり、身体の芯から疲れが溶けていくのを感じる。

 自分の部屋に戻り、清潔なシーツのベッドに潜り込む。

 温かい食事。優しい少女。平和な村。まるで、嵐の前の束の間の休息のようだ。

 だが、俺の心の片隅では、拭いきれない疑念が、まだ渦巻いていた。

 彼女は、なぜ、俺がこの世界の人間ではないとわかったのか。そして、なぜ、彼女の顔は、あの少女と瓜二つなのか。

 答えの出ない問いを抱えたまま、俺は、深い眠りへと落ちていった。

 2026/1/7から2026/1/20の間は、更新をお休みとさせていただきます。

 これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ