第71話「閃光の奇策と乱れた歯車」
「今だ、リリア!」
「聖なる光よ!」
俺の絶叫に応え、リリアが杖を力強く地面に突き立てた。
瞬間、闘技場の床そのものが、まるで太陽が目の前で爆発したかのような、凄まじい閃光を放った。
「ぐっ……!」
俺は、合図と同時に固く目を閉じていたが、それでも瞼の裏が焼き付くほどの眩しさだった。
「ギッ……!?」
「グゥ……!?」
閃光をまともに浴びたレオと、名もなき青年の動きが、初めて、明確に乱れた。
彼らは、感情のない人形のはずだ。だが、その身体は、強烈な光という予期せぬ刺激に、人間のものと全く同じように、反射的に反応してしまったのだ。
視界を奪われ、一瞬だけ、その完璧な動きが停止する。
「……なるほどね」
玉座から、「監視者」の少女の、どこか感心したような、それでいて少しだけ不機嫌そうな声が聞こえた。
「動きを読まれるなら、読めない動きをすればいいか。単純だけど、面白い手じゃない」
彼女の言う通りだ。
こいつらが、俺たちの全てを知り尽くしているなら、俺たちが知らない、俺たち自身ですら予測できない動きで、不測の事態を作り出すしかない。
そして、そのための鍵が、リリアだった。 俺やグレイの動きは、過去の戦闘データから読まれている。
だが、リリアは、これまで本格的な攻撃に参加してこなかった。彼女の魔法が、この戦局において、唯一の予測不可能な要素だったのだ。
「グレイ!」
「言われなくても!」
俺とグレイは、この一瞬の好機を逃さなかった。 グレイは、怯んだ名もなき青年の体勢を崩すと、その錆びた剣を大剣で絡め取り、動きを完全に封じ込めた。
「リリア! こいつを頼む!」
「うん!」
俺は、視界が回復していないレオの懐へと、再び飛び込んだ。
もう、迷いはない。
「お前が、俺たちの全てを知ってるって言うなら……!」
俺は、剣を振るわない。代わりに、レオの腕を掴み、その身体を、俺自身の身体を使って、強引に投げ飛ばした。
「この動きは、知らないだろ!」
これは、グレイに教わった剣術じゃない。現実世界で、体育の授業で習っただけの、ただの柔道の投げ技だ。
「なっ……!?」
レオの身体が、初めて、予測不能な動きに対応できず、大きく宙を舞う。
俺は、投げ飛ばしたレオが地面に叩きつけられる、その一瞬を狙った。『星詠み』に、意識を集中させる。
今度こそ、狙って、そして、確実に。
「スターダスト・スラッシュ!」
俺が叫ぶと、『星詠み』の刀身から、無数の光の粒が迸り、空中で体勢を崩したレオの身体に、雨のように降り注いだ。
「ギ……ア……アア……」
レオは、声にならない悲鳴を上げ、その身体が、胸から少しずつ、光の粒子となって崩壊し始めた。
「レオ!」
リリアが、悲痛な声を上げる。
「見るな、リリア!」
俺は叫んだ。
「そいつは、もう、お前の知ってるレオじゃない! 俺たちが、俺たちの手で、あいつを、その苦しみから解放してやるんだ!」
俺の言葉に、リリアは唇をきつく結び、涙を堪えながら、こくりと頷いた。
「さて、と。残るは、あと一体ね」
玉座から聞こえる「監視者」の声は、どこか冷めていた。彼女の予測を超えた展開が、彼女の観劇の楽しみを、少しだけ削いでしまったのかもしれない。
「ミナト、加勢する!」
グレイが、名もなき青年をリリアに任せ、俺の隣に並び立つ。
「ああ。二人で、決めるぞ」
俺たちは、崩れかけたレオの身体を、そして、その向こう側で冷ややかに俺たちを見下ろす全ての元凶である少女を、静かに睨みつけた。
戦いは、まだ終わっていない。




