第69話「交差する刃と断ち切れない想い」
「リリア! グレイ!」
俺は、二人の名前を叫びながら、咄嗟にその間に割って入った。
キィン! ガギンッ!
レオと、名もなき青年の錆びた剣を、『星詠み』で同時に受け止める。凄まじい衝撃が、両腕を痺れさせた。
「ぐっ……! こいつら、見た目以上のパワーだ……!」
「ミナトさん!」
「ミナト、避けろ!」
リリアとグレイが、我に返って叫ぶ。
俺は、二人の剣を力任せに弾き返すと、一度大きく後ろへ跳んで距離を取った。
「二人とも、しっかりしろ! そいつらは、もう、あんたたちの知ってる奴らじゃない! あの女の『人形』だ!」
俺の言葉に、二人ははっとしたように顔を上げる。だが、その瞳には、まだ深い迷いと苦悩の色が浮かんでいた。
「でも……!」
リリアが、何かを言いかける。
「感傷に浸ってる暇はねえぞ!」
俺は、グレイがいつも俺に言っていた言葉を、そのまま彼らに叩きつけた。
「こいつらは、本気で俺たちを殺しに来てる! やらなきゃ、俺たちがやられるんだ!」
俺の叫びが、ようやく二人の心を現実に引き戻したようだった。
「……ああ。わかってる」
グレイが、大剣を構え直す。その目は、目の前の青年――かつての仲間――を、倒すべき敵として、捉え直していた。
「……私も、戦う」
リリアも、杖を強く握りしめ、詠唱の準備を始める。その顔には、悲壮な、しかし、揺るぎない覚悟が浮かんでいた。
「よし、行くぞ!」
俺の合図で、三人が同時に動いた。
グレイが、かつての仲間だった青年と正面から打ち合う。大剣と錆びた剣が、火花を散らしながら、激しくぶつかり合った。
「うおおおおっ!」
グレイは、雄叫びを上げながら、相手の動きを力で封じ込めようとする。だが、青年の動きは、グレイの剣技を完全に模倣しており、一進一退の攻防が続く。
「ミナトさん、援護する!」
「頼む、リリア!」
俺は、レオと向かい合う。
「聖なる光よ、彼の者を挫け!」
リリアの放った光の矢が、レオの肩を撃つ。だが、レオは怯むことなく、その空っぽの瞳で、ただ俺だけを見つめている。
「くそっ、魔法も効きが悪いのか!」
「お前の相手は、俺だ!」
俺は、『星詠み』から光の斬撃を放ちながら、レオに斬りかかった。
レオは、その斬撃を、まるで予測していたかのように、最小限の動きでひらりとかわす。
そして、俺が振るう『星詠み』の軌道を、錆びた剣で的確にいなしていく。
強い。『影のミナト』ほどの圧倒的なパワーはない。だが、その動きは、どこまでも冷静で、無駄がなく、そして、俺の攻撃の全てを、まるで先読みしているかのようだった。
「ふふっ。無駄よ」
不意に、玉座から、「監視者」の少女の、楽しげな声がした。
「彼は、あなたたちと戦った、全ての記憶を持っている。あなたの剣筋も、グレイの癖も、リリアの魔法のタイミングも、全て、知り尽くしているわ」
「なんだと……!?」
「言ったでしょう? 最高の『鏡』だって。あなたたちの過去とあなたたちの今、その全てを映し出す、絶望の鏡よ」
少女の言葉通り、俺たちの攻撃は、ことごとく防がれ、あるいは、いなされてしまう。
じりじりと、俺たちは追い詰められていく。
過去の仲間という、断ち切れない想い。
そして、自分たちの全てを知り尽くした、完璧な敵。 これ以上に、厄介な相手はいなかった。




