表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/77

第57話「鏡との死闘と見せつけられる差」

「ぐっ……うおおおおっ!」


 俺は、歯を食いしばりながら、『影のミナト』が振り下ろす黒い剣を押し返そうとする。

 だが、奴の力はあまりに強大で、俺の身体は少しずつ、地面へと押し付けられていく。


「ミナト、手を貸す!」


 グレイが、大剣を構えて駆け寄ろうとする。


「来るな、グレイ!」


 俺は、叫んだ。


「こいつは、俺の敵だ! 俺が、一人でやる!」

「馬鹿野郎! そいつは、お前自身なんだぞ! まともにやり合って、勝てる相手じゃねえ!」


 グレイの言う通りだった。『影のミナト』の剣筋は、俺自身が知る、俺の動きそのものだ。

 だが、その一振り一振りに、俺にはないものが宿っていた。

 迷いのない、完璧な精度。 躊躇のない、純粋な殺意。 そして、力の全てを、効率的に破壊へと転換する圧倒的な戦闘センス。

 こいつは、俺が持ち得なかった才能の塊。理想の、俺の姿だった。


「はあああっ!」


 俺は、力の限りを込めて剣を弾き返し、一度距離を取る。


「ミナトさん!」

「リリア、手を出すな! これは、俺の戦いだ!」


 俺は、再び『影のミナト』と向かい合う。

 奴は、何も言わない。ただ、空っぽの瞳で、俺を排除すべき対象として見ているだけだ。


『そうよ。それでいいの』


 不意に、監視者の少女の声が、頭の中に響いた。


『仲間なんて、当てにしちゃだめ。あなたは、一人で強くならなくちゃ。彼のようにね』


「黙れ!」


 俺は、空に向かって叫んだ。


「俺は、こいつとは違う!」


 俺は、再び地面を蹴った。

 今度は、ただ力任せに打ち合うのではない。グレイとの訓練を思い出す。相手の動きを、読め。

 『影のミナト』が、横薙ぎに剣を振るう。

 俺は、その動きを予測し、低くしゃがみ込んでそれをかわす。

 そして、がら空きになった胴体へ、カウンターの一撃を叩き込む。

 手応えは、あった。 だが、『影のミナト』は、俺の一撃が当たる寸前に、自らの腕の鎧でそれを受け止め、ダメージを最小限に抑えていた。

 そして、即座に、蹴りを放ってきた。


「ぐはっ!」


 腹にめり込む、強烈な一撃。俺は、数メートルも吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ミナトさん!」


 リリアの悲痛な叫び声が聞こえる。


「……強え……。めちゃくちゃ、強い……」


 俺は、咳き込みながら、なんとか立ち上がった。

 俺の動きは、全て読まれている。それどころか、俺が次に何をしようとするか、俺自身よりも、奴の方が正確に理解しているかのようだ。


 これが、俺の理想の姿? 

 ふざけるな。こんな、ただの殺戮人形が、俺の理想であるものか。


『あらあら。もう、終わりかしら?』


 監視者の少女の、どこか退屈そうな声が響く。


『あなた、彼に勝つつもりなんでしょう? その程度で、どうやって自分を超えるというのかしら。期待外れも、いいところね』


 その声は、俺の心を、じわじわと絶望で満たしていく。


 勝てない。 こいつには、勝てない。

 技術も、力も、覚悟も、全てにおいて、俺はこいつに劣っている。


 俺が、諦めかけた、その時だった。


「――ミナト! 下を向くな!」


 グレイの、雷のような怒号が、俺の鼓膜を打った。


「お前は、そいつと何が違う! 目を逸らすな、考えろ! お前にあって、そいつにないものは、何だ!」


 俺にあって、こいつにないもの……? 


 俺は、目の前の、空っぽの瞳をした「自分」を、もう一度見つめた。

 そして、気づいた。


 そうだ。こいつには、ない。

 俺が、この世界に来て、手に入れたたった一つの何よりも大切なものが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ