表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/77

第56話「星降りの洞窟と鏡合わせの敵」

 カツン、カツン……。


 静寂に包まれた『星降りの洞窟』に、規則正しい足音が響き渡る。

 それは、俺たちの背後から、ゆっくりと、着実に近づいてきていた。


「……なんだ、今の音は」


 俺は、『星詠み』の柄に手をかけながら、慎重に振り返った。


「ミナトさん、あれ……!」


 リリアが、息を呑んで俺たちの来た方向――水底の階段――を指さす。


 階段の上から、一つの人影が、ゆっくりと降りてくるところだった。全身を、黒曜石のような、光を吸い込む漆黒の鎧で覆っている。

 その手には、俺が持つ『星詠み』と瓜二つの、星々を宿した黒い剣が握られていた。

 そして、何よりも俺を驚かせたのは、その顔だった。兜はつけていない。

 そこに現れたのは、紛れもなく、俺自身と全く同じ顔だった。


「な……なんだよ、あれ……。俺……?」


 俺は、目の前の信じられない光景に、言葉を失った。

 黒い鎧を纏ったもう一人の俺は、何も言わない。ただ、その目に、何の感情も宿さない、空っぽの瞳で、じっとこちらを見ているだけだ。


「……ドッペルゲンガーか?」


 グレイが、大剣を構えながら、低い声で呟いた。


「いや、違う。あれは、ただの幻影じゃねえ。実体がある。それも、とんでもなく、嫌なプレッシャーを放ってやがる」


 その時、俺たちの脳裏に、再びあの声が響いた。鈴が鳴るような可憐な声。


『ふふっ、驚いたかしら?』


 「監視者」の少女の声だ。その声は、心の底から楽しんでいるようだった。


『それは、私があなたのために用意した最高の「鏡」よ。あなたの心の奥底にある、あなた自身も気づいていない、純粋な闘争心と、破壊衝動。それを形にしたのが、「影のミナト」よ』


「影の、ミナト……?」


『あなたは、いつも迷ってばかり。仲間を守りたい、強くなりたいと願いながら、その力の使い方を、心のどこかで恐れている』


 少女の声のトーンが、ふっと素に戻る。


『でも、彼は違う。彼は、迷わない。躊躇しない。ただ、目の前の敵を、純粋な力で、効率的に破壊するためだけに存在する。あなたが、本当はそうありたいと願っている、もう一人のあなた自身の姿よ』


「ふざけるな! 俺は、あんな……!」


 俺は、あの空っぽの目をした化け物が、自分自身だなんて認めたくなかった。


『さあ、始めましょうか。三度目の試練を』


 少女の声が、再び形式張った丁寧な口調に戻った。


『――あなた自身を、超えてみなさい』


 その言葉が、合図だった。

 『影のミナト』は、その場でふっと姿を消した。


「どこへ消えた!?」


 グレイが叫ぶ。


「上だ!」


 俺は、咄嗟に上を見上げた。

 『影のミナト』は、音もなく俺の真上に移動し、その黒い『星詠み』を、俺めがけて振り下ろそうとしていた。


 キィィィン!


 俺は、間一髪でその一撃を自分の『星詠み』で受け止める。

 凄まじい衝撃。まるで、グレイと打ち合った時のような、いや、それ以上の重圧が、腕にかかる。


「ぐっ……!」

「ミナトさん!」

「ミナト!」


 リリアとグレイの声が聞こえる。だが、俺は目の前の「自分」から、目を離すことができなかった。

 空っぽの瞳。何の感情も浮かんでいないのに、その剣からは、純粋な殺意だけが、ひしひしと伝わってくる。

 こいつは、本気で、俺を殺しに来ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ