第51話「最初の依頼とA級への道」
翌朝、俺たちは意気揚々と冒険者ギルドの扉を叩いた。
朝のギルドは、夜とは違って比較的落ち着いていたが、それでも依頼を探す冒険者たちでそれなりに賑わっている。
「さて、と。まずは、お前のランクで受けられる依頼を探すぞ、ミナト」
グレイに促され、俺はF級とE級の依頼が張り出されている掲示板の前に立った。
「薬草採取、下水道のネズミ駆除、迷子猫の捜索……。なんだか、パッとしない依頼ばっかりだな」
俺が少しがっかりしたように言うと、グレイが俺の頭を小突いた。
「当たり前だ、ひよっこ。お前はまだ、ゴブリン一匹倒すのにもギルドの許可がいるレベルなんだ。地道に実績を積んで、信頼を得るしかねえんだよ」
「わかってるよ……」
「あ、ミナトさん、これなんかどうかな?」
リリアが、一枚の羊皮紙を指さした。
「『E級依頼:『アビス』第一階層の地図作成。構造変化後の新エリアの情報を求む。報酬、銀貨十五枚』……。地図作成?」
「うん。これなら、モンスターとの戦闘だけじゃなくて、ダンジョンの中を探索する訓練にもなると思うんだ」
リリアの提案に、グレイも頷いた。
「悪くねえな。ただ地図を作るだけじゃなく、その過程でモンスターに遭遇する可能性も高い。今の俺たちの目的にも合ってる」
「よし、じゃあ、これにしよう!」
俺は、その依頼書を剥がして、ギルドマスターのいるカウンターへと向かった。
「よう、坊主。もう次の依頼かい。感心、感心」
ギルドマスターは、片眼鏡の奥の目で俺を一瞥すると、にやりと笑った。
「この、地図作成の依頼を受けたい」
「ほう、地図作成ね。地味だが、駆け出しにちょうどいい仕事だ。パーティーで受けるのかい?」
「ああ。この三人で」
俺がグレイとリリアを指さすと、ギルドマスターは少し驚いたような顔をした。
「A級冒険者が二人もついて、E級の依頼とはね。ずいぶんとまあ、過保護なこった」
その言葉に、周囲にいた他の冒険者たちが、くすくすと笑う。
「なんだと……!」
俺がカッとなって言い返そうとすると、グレイが俺の肩を掴んで制した。
「坊主、知らないのかい?」
ギルドマスターが、俺の反応を見て面白そうに言った。
「この『アビス』は、生きてるんだよ。気まぐれに壁を作ったり、新しい通路を生やしたりして、常に姿を変え続けてる。だから、たとえ第一階層だろうと、昨日までの地図が今日使えるとは限らない。おかげで、あたしたちギルドは、万年地図職人不足ってわけさ」
「ダンジョンが、生きてる……?」
「そういうこと。だから、この依頼は地味に見えて、結構重要なんだ。舐めてかかると、帰り道がなくなってる、なんてことにもなるからね」
ギルドマスターの説明に、俺はゴクリと唾を飲んだ。
このダンジョンは、俺が思っている以上に、厄介で、そして不思議な場所らしい。
「この依頼、確かに受ける。必ず、やり遂げてみせる」
俺は、改めて決意を込めて言った。
俺の目を見て、ギルドマスターは少しだけ表情を変えた。
「……いい目をするようになったじゃないか、坊主。わかったよ。依頼、確かに受理した。達成報告を、楽しみに待ってるさ」
ギルドを出て、俺たちは『アビス』の入り口へと向かう。
他の冒険者からの嘲笑が、まだ耳の奥に残っていた。悔しい。
だが、それが今の俺の実力であり、現実だ。
「……見てろよ」
俺は、誰に言うでもなく、呟いた。
「いつか絶対、あいつらを見返してやる。A級になって、グレイやリリアと、本当の意味で肩を並べてやるんだ」
俺の決意に、隣を歩くリリアが、にこりと微笑んだ。
「うん。ミナトさんなら、きっとできるよ」
「フン。口だけ達者なのは、相変わらずだな」
グレイも、そっぽを向きながら、憎まれ口を叩いた。 でも、その声は、どこか楽しそうに聞こえた。
俺たちの本当の冒険が、今、ここから始まる。
『アビス』の入り口から吹き付ける風が、まるで俺たちの新たな門出を祝福しているかのように、心地よかった。




