第50話「実戦という名の訓練とそれぞれの目標」
あの日から、俺とリリアの特訓の日々が続いた。
俺は、来る日も来る日も『星詠み』を振り続け、光の斬撃を放つ感覚を身体に叩き込んだ。
最初は十回に一回出れば良い方だったが、今では三回に一回は、狙った方向に光の刃を飛ばせるようになっていた。
「どうだ、グレイ! 少しはマシになっただろ!」
訓練の終わり、俺は汗だくになりながらも、得意げにグレイに言った。
「フン。ようやく、的に当たるようになっただけだ。実戦じゃ、動く相手にそれを当てなきゃならん。まだまだ、話にならん」
グレイは相変わらず口が悪い。だが、その言葉とは裏腹に、彼の目には確かな手応えを感じているような色が浮かんでいた。
一方、リリアの訓練も、着実な進歩を見せていた。
「聖なる光よ、彼の者を挫け!」
彼女が詠唱すると、白木の杖から放たれた光の矢が、以前とは比べ物にならないほどの速さで的の樽に突き刺さった。
バシッ! という、確かな破壊音を立てて。
「わ……! すごい、威力も、速さも、前とは全然違う……!」
リリア自身が、一番驚いているようだった。
「当たり前だ。お前は、自分の力を抑え込んでいただけだ」
グレイが、静かに言う。
「仲間を守るためなら、お前はもっと強くなれる。その力を、信じろ」
「……うん!」
リリアは、自分の杖をぎゅっと握りしめ、力強く頷いた。
その日の夕食後。
グレイが、俺たち二人に向き直って切り出した。
「さて、と。お前たちの基礎訓練は、今日で終わりだ」
「え、終わり? でも、俺、まだ百発百中には……」
「馬鹿野郎。いつまで、こんな中庭で剣を振ってるつもりだ。実戦に勝る訓練はねえ。明日からは、場所を移す」
「場所を移すって、どこへ?」
「決まってるだろ。『アビス』だ」
グレイの言葉に、俺とリリアは息を呑んだ。
「明日からは、ギルドの依頼を受けながら、ダンジョンの中で実戦訓練を行う。お前たちには、モンスターを倒しながら、それぞれの課題をこなしてもらう」
「ギルドの依頼……!」
「そうだ。いつまでも俺の金で飯を食わせるわけにもいかんからな。自分たちの生活費くらい、自分たちで稼いでもらう」
グレイは、ニヤリと笑った。
「それに、お前たちには、明確な目標が必要だ」
彼はまず、俺の目を見た。
「ミナト。お前は、A級冒険者を目指せ」
A級。それは、グレイやリリアと同じ、このギルドでもトップクラスの実力者だけが許される称号。
今のE級の俺にとっては、あまりに遠い目標に思えた。
「A級なんて、俺に……」
「無理だとでも言うのか? その『星詠み』を持ってて、その程度か、お前の覚悟は」
グレイに挑発され、俺はぐっと唇を噛んだ。
「A級になれば、ギルド内で閲覧できる情報も、受けられる依頼も格段に増える。アビスの深層に関する情報や、リリアの探し人に関する、より深い情報にアクセスできる可能性も高くなる。それに、何より……」
グレイは、俺とリリアを交互に見た。
「アビスの最深部にいる『監視者』とやらに辿り着くには、A級の実力は、最低条件だ。それ以下の実力じゃ、話にもならん」
次に、グレイはリリアに向き直った。
「リリア。お前は、ただのA級ヒーラーで終わるな。攻撃魔法を完全に自分のものにし、前衛も後衛もこなせる、唯一無二の存在になれ。それが、お前の目標だ」
「私だけの、存在……」
「ああ。お前のその力は、ただ仲間を癒すだけじゃない。道を切り拓く力にもなる。それを、お前自身が証明して見せろ」
グレイの言葉に、リリアは強く頷いた
「うん!」
その目には、もう迷いはない。
「よし、決まりだな」
グレイは、満足そうに言った。
「なら、明日の朝一でギルドに行くぞ。まずは、お前たちの実力に見合った、手始めの依頼を探しにな」
俺は、明日からの、本当の意味での「冒険」の始まりに、胸が高鳴るのを感じていた。
ただの訓練じゃない。依頼を受け、報酬を得て、そして、俺たちの目的のために一歩ずつ進んでいく。
俺は、この世界で、本当の冒険者としての第一歩を、ようやく踏み出そうとしていた。




