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ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


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第49話「新たな訓練と見えない星」

 翌日から、俺の本当の地獄が始まった。


「いいか、ミナト。お前の最初の課題は、『星詠み』の力を自在に引き出すことだ。まずは、あの時の光る斬撃。あれを、百発百中で出せるようになれ」


 宿屋の中庭で、グレイは腕を組んで仁王立ちしながら言った。


「百発百中って……。無茶言うなよ! あの時だって、どうやって出したのか、俺にもわかってないのに!」

「だから、考えろと言ったはずだ。あの時、お前は何を考えていた? どういう気持ちで、剣を振るった? それを思い出せ。再現しろ」

「そんなこと言われても……」


 あの時は、ただ無我夢中だった。グレイを助けたい、リーパーを倒したい、その一心で……。


 俺は、『星詠み』を構え、意識を集中させる。リーパーとの戦いを思い出す。

 あの時の魂が燃えるような感覚。剣と一体になるような高揚感。


斬撃を、飛ばせ……!


 心の中で強く念じ、剣を振るう。

 ブンッ、と空を切る音だけが虚しく響いた。何も起こらない。


「くそっ!」

「話にならんな」


 グレイが、冷たく言い放つ。


「お前は、ただ形をなぞってるだけだ。あの時の、お前の覚悟が、今のその剣には微塵も感じられん」

「ミナトさん、頑張って!」


 中庭の隅で、リリアが応援してくれる。彼女もまた、グレイに言われた通り、攻撃魔法の訓練を始めていた。

 彼女の前には、的として置かれた古い樽がある。


「聖なる光よ、彼の者を挫け!」


 リリアが詠唱すると、彼女の青い宝玉が埋め込まれた白木の杖から小さな光の矢が放たれ、樽に当たった。威力は、石を投げた程度だ。


「うぅ……やっぱり、難しい……」


 リリアは、しょんぼりと肩を落とす。


「当たり前だ」


 グレイは、リリアにも容赦ない。


「お前は、今まで人を癒すことしか考えてこなかった。その手に、人を傷つけるかもしれない力があることを、心のどこかで恐れている。その恐怖を乗り越えねえ限り、お前の魔法は、ただの豆鉄砲のままだ」

「恐怖……」


 リリアは、自分の掌をじっと見つめている。


「俺も、リリアも、結局は同じってことか……」


 俺は、自分の心の中にある、見えない壁の存在を、改めて感じていた。

 力を振るうことへの無意識の躊躇い。失敗することへの恐怖。


「そうだ。お前たち二人に足りないのは、技術じゃねえ。自分の力を、信じきる覚悟だ」


 グレイは、俺とリリアを交互に見た。


「ミナト。お前は、その剣がお前に応えてくれることを、心の底から信じろ。リリア。お前は、自分の力が、仲間を守るためのものだと、強く信じろ。それができなきゃ、お前たちは、アビスの深層に辿り着く前に、必ず死ぬ」


 グレイの言葉は、いつも通り厳しかった。だが、その奥には、俺たちへの確かな信頼が込められているように感じられた。


「……もう一回だ!」


 俺は、再び『星詠み』を構えた。 今度は、ただ念じるだけじゃない。

 もっと、強く、鮮明にイメージする。

 この剣は、俺の腕の延長じゃない。俺の魂の一部だ。俺が思った通りに、俺が願った通りに、この剣は応えてくれる。

 夜空を流れる、一筋の流星のように。 鋭く、速く、そして、美しく。


「――行けっ!」


 俺は、叫びと共に剣を振り抜いた。

 その瞬間、『星詠み』の刀身が、微かな青い光を帯びた。

 そして、剣先から放たれたのは、まだ不完全で、か細いものだったが、紛れもない、光の斬撃だった。


「……やったか!?」

「フン。まだまだ、星屑にもならねえ、ただの火花だな」


 グレイは鼻で笑ったが、その口元は、確かに笑っていた。

 俺は、確かな手応えを感じていた。

 見えなかった壁の向こう側に、ほんの少しだけ、指先が触れたような、そんな気がした。

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