第4話「足手まといと苦い食事」
男の後ろを、俺とリリアは黙ってついていった。気まずい沈黙が、薄暗い通路に満ちている。
男の背中は大きく、その一歩一歩が迷いのない絶対的な自信に満ちていた。それに比べて、俺の足取りはなんと惨めなことか。
先ほどの戦闘で負った傷はリリアが癒してくれたが、心の傷はズキズキと痛んだ。
「あの……助けてくれて、ありがとうございます」
俺は、意を決して男に話しかけた。
男は歩みを止めない。ちらりとこちらに視線をよこしただけだ。
「俺が助けたのはリリアだ。お前は、ただのついでだ。」
「礼を言う必要はねえ。お前を助けたつもりはねえからな」
「え……?」
「俺が助けたのはリリアだ。お前は、ただのついでだ」
あまりに率直な、棘のある言葉。俺はぐっと言葉に詰まった。
「そんな言い方……!」
俺の隣で、リリアが抗議の声を上げる。
「ミナトさんは、私を守ろうと……!」
「守る? 笑わせるな。あれはただの犬死にだ。自分の実力もわからねえガキが、ヒーローごっこに酔ってただけだろうが」
図星だった。何も言い返せない。錆びた剣を握る手に、ぐっと力が入る。
やがて、男はある小部屋の前で足を止めた。そこは、俺が最初に目覚めた部屋よりも少し広く、生活の痕跡が色濃く残っていた。
「今夜はここで野営する。火の番くらいはできるだろうな、ガキ」
男はそう言うと、壁に立てかけてあった大剣の隣にどかりと腰を下ろし、目を閉じてしまった。
「……ごめんね、ミナトさん。あの人、口は悪いけど、悪い人じゃないんだ」
リリアが、申し訳なさそうに俺の顔を覗き込む。
「あの人は、なんて名前なんだ?」
「グレイ。……私のパーティーのリーダーなの」
「パーティー……? じゃあ、リリアは一人じゃなかったのか」
「うん……。でも、色々あって、今はほとんど別行動してるから……」
リリアはそう言って、俯いてしまった。
グレイとリリア。この二人の間には、俺の知らない何かがある。その事実が、なぜか胸にちくりと刺さった。
俺は言われた通り、焚き火の前に座り、火の番をした。パチパチと薪がはぜる音だけが、静かな部屋に響く。
グレイは、壁にもたれたまま微動だにしない。リリアは少し離れた場所で、膝を抱えて座っている。
気まずい。とにかく、気まずい。
しばらくして、リリアが立ち上がり、干し肉と硬いパンを俺の前に差し出した。
「ミナトさん、お腹すいたでしょ。これ、食べて」
「あ、ああ。ありがとう」
受け取った干し肉は、石みたいに硬くて、やけに塩辛かった。パンもパサパサで、喉を通らない。だが、腹は正直だった。
俺は、夢中でそれを口に詰め込んだ。
「……そんなにがっついて食うな。みっともねえ」
不意に、グレイが目を開けて言った。
「なっ……!」
「ダンジョンでは、いつ敵に襲われるかわからねえ。常に警戒を怠るな。飯を食う時も、寝る時もだ」
「……」
「お前、何も知らねえんだろ。名前は?」
「……ミナトだ」
「ミナト。お前みたいなのが一番最初に死ぬ。夢と現実の区別もつかねえ、甘ったれたガキがな」
グレイの言葉は、いちいち俺の心を抉った。
「だったら、放っておいてくれればよかっただろ!」
俺は、思わず叫んでいた。
「俺は、リリアと二人で……!」
「二人で、仲良く死ぬつもりだったか? おめでたいな」
グレイは鼻で笑うと、再び目を閉じてしまった。
俺は、食いかけのパンを強く握りしめた。悔しくて、情けなくて、涙が出そうだった。
リリアが隣にそっと座り、また小さく謝った。
「ごめんね」
俺は何も答えられなかった。ただ、燃え盛る炎を、じっと見つめていることしかできなかった。




