表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/77

第48話「訓練前夜とギルドのざわめき」

 その日の夜、俺たちはそれぞれの目的のため、再び冒険者ギルドへと足を運んだ。

 昼間の喧騒とは打って変わり、夜のギルドはより荒々しく、そして濃密な熱気に満ちていた。

 酒の匂い、大声で武勇伝を語る冒険者たちの笑い声、吟遊詩人が奏でる物悲しいリュートの音色。

 それら全てが混じり合い、独特の雰囲気を醸し出している。


「さて、俺は少し野暮用がある。お前たちは、そこで適当に時間を潰してろ。面倒には、巻き込まれるなよ」


 グレイはそう言うと、人混みの中に紛れるようにして、ギルドの奥へと消えていった。

 おそらく、彼なりの情報収集なのだろう。


「ミナトさん、私たちはどうしようか?」


 リリアが、少し不安げに俺の顔を見上げた。

 彼女のような可憐な少女が一人でいるには、この場所は少しばかり柄が悪すぎる。


「そうだな……。あ、そうだ。あっちに依頼掲示板がある。どんな依頼があるのか、見てみないか?」


 俺は、壁一面に羊皮紙が張り出された一角を指さした。


「うん、そうだね!」


 リリアも頷き、俺たちは人波をかき分けるようにして掲示板へと向かった。


 掲示板には、多種多様な依頼書が、ランク別に分けられて張り出されていた。


「えーっと、『F級依頼:薬草採取。ギルド裏の森にて。報酬、銅貨五枚』……。安いな」

「こっちは、『D級依頼:ゴブリンの巣の討伐。『アビス』第三階層。報酬、銀貨三十枚』か」

「あ、見てミナトさん! 『B級依頼:ワイバーンの討伐。北の山脈にて。報酬、金貨百枚』だって! すごいね!」


 リリアが、目を輝かせながら指さす。

 俺は、その依頼書に書かれた「B級」という文字を見ながら、自分たちの現在地を改めて思い知らされた。

 今の俺は、まだE級。ゴブリン討伐すら、一人では受けられないレベルだ。


「……早く、強くならないとな」


 俺がぽつりと呟くと、リリアが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「大丈夫だよ、ミナトさんなら。だって、グレイさんも認めてたじゃない」

「だと、いいんだけどな……」


 その時だった。


「よう、そこのお二人さん。少し、いいかい?」


 不意に、背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこに立っていたのは、優男風の人の良さそうな笑みを浮かべた魔術師の男だった。


「何か用でしょうか?」


 リリアが、丁寧に応対する。


「いや、君たちが、あの『星詠み』を持つ噂のルーキーとその連れのヒーラーさんじゃないかと思ってね。俺は、ケイン。しがないC級の魔術師さ」


 ケインと名乗る男は、にこやかに自己紹介した。


「俺はミナトで、こっちはリリアだ」

「知ってるよ。君たちの噂は、もうアークライト中に広まってるからね。それで、一つ、提案があるんだが……俺たちとパーティーを組まないか?」

「パーティー……?」

「ああ。君のその剣とリリアさんの回復魔法があれば、俺の攻撃魔法がもっと活きる。俺たちなら、すぐにB級、いや、A級だって目指せるはずだ! どうだい、悪い話じゃないだろう?」


 ケインは、自信満々にそう言った。

 彼の言葉は、一見すると魅力的に聞こえた。だが、俺はすぐに首を横に振った。


「悪いが、断る。俺たちには、もう仲間がいるんでね」

「仲間? ああ、A級のグレイのことかい? でも、彼はソロで活動することが多いと聞く。それに、君ほどの逸材が、いつまでも彼の言いなりになっている必要はないだろう?」


 ケインの言葉は、巧みに俺の自尊心をくすぐり、グレイへの不満を煽ろうとしているのが透けて見えた。


「大きなお世話だ。俺は、グレイに教えを受けてる。それに、俺たちの目的は、ただランクを上げることじゃないんでね」


 俺がきっぱりと断ると、ケインは一瞬だけ、その人の良さそうな笑みの奥に、冷たい光を宿らせた。


「……そうかい。残念だな。まあ、気が変わったら、いつでも声をかけてくれ」


 ケインはそう言うと、あっさりと人混みの中へ消えていった。


「……何だったんだ、今の」

「わからない……。でも、なんだか、少し怖い感じがしたね」


 リリアも、不安げに呟く。

 ギルドマスターの警告が、再び頭をよぎる。この剣を持つということは、こういう面倒ごとに、常につきまとわれるということなのだ。


「悪いな、待たせた」


 そこに、グレイが戻ってきた。

「どうだった? 何か分かったか?」

「いや、大した情報はなかった。だが、一つだけ、気になる噂を耳にした」


 グレイは、声を潜めて言った。


「最近、このアークライトで、冒険者が何人か、立て続けに行方不明になってるらしい。それも、全員、そこそこの腕利きの奴らばかりだ」

「行方不明……?」

「ああ。アビスで死んだのなら死体が見つかるはずだが、それもない。まるで、神隠しにでも遭ったように、忽然と姿を消すんだとよ」


 その話は、俺の心に、新たな、そして不吉な影を落とした。

 『星詠み』を狙う者たち。リリアの過去。そして、冒険者の連続失踪事件。

 この街には、俺たちがまだ知らない、深い闇が渦巻いている。

 俺は、明日から始まる訓練の意味を、改めて噛み締めていた。

 ただ強くなるだけじゃない。この複雑に絡み合った謎と、悪意に満ちた世界で生き抜くために、俺は、強くならなければならないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ