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ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


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第47話「地上での再起とそれぞれの課題」

 星空の空間から地上に戻った俺たちを迎えたのは、アークライトの喧騒と燦々と降り注ぐ太陽の光だった。

 あの異常な空間にいた後だと、ただの街の音が、鳥の声が、そして肌を焼く日差しさえもが、自分が生きているという実感を与えてくれるようだった。


「……腹が、減ったな」


 『アビス』の入り口で、グレイがぽつりと呟いた。


「え?」

「腹が減ったと言ったんだ。あれだけの死闘を繰り広げたんだ。まずは、まともな飯を腹一杯食う。話はそれからだ」


 グレイのあまりに現実的な言葉に、俺とリリアは顔を見合わせ、そして、ふっと笑みがこぼれた。

 そうだ。俺たちは、生きて帰ってきたんだ。


「そうだね! 今日は私がご馳走するよ! ギルドの報酬、まだ残ってるから!」


 リリアが、久しぶりに心からの明るい声で言った。


「いいね! じゃあ、一番高い肉料理、頼んじゃおうかな!」

「調子に乗るな、ガキ。お前は黒パンと水で十分だ」

「なんだよ、それ!」


 憎まれ口を叩き合いながら、俺たちはギルドに併設された酒場へと向かった。その足取りは、不思議なほど軽かった。


 酒場のテーブルで、湯気の立つシチューと分厚いステーキを前に、俺たちは無我夢中で食事をかきこんだ。

 生きていることを実感する最高に美味い飯だった。

 腹が満たされ、人心地がついたところで、グレイが切り出した。


「さて、と。今後のことだ」


 彼の声に、俺とリリアはスプーンを置き、居住まいを正した。


「俺たちの目的は、アビスの最深部へ辿り着くこと。そのためには、今のままじゃ話にならん。よって、これより、第二段階の訓練を開始する」

「第二段階……」

「そうだ。これまでは、お前を死なせないための基礎訓練だった。だが、これからは、勝つための訓練だ。ミナト、お前には二つの課題を与える」


 グレイは、俺をまっすぐに見据えた。


「一つは、『星詠み』の力を完全に制御することだ」

「制御……」

「ああ。あのリーパー戦で見せた星屑の技。あれを、お前の意志で、いつでも、自在に引き出せるようになれ。今のようないざという時のまぐれ当たりじゃ、安定した戦力にはならん」


 確かに、あの技はどうやって出したのか、俺自身にもわかっていなかった。ただ、無我夢中で、魂が叫んだ結果だ。


「どうすれば……」

「知るか。お前とその剣の問題だ。俺に聞くな。自分で考えろ。それが、お前の最初の課題だ」


 突き放すような言い方。だが、それは、俺と『星詠み』の関係性を、彼が信頼してくれている証拠のようにも感じられた。


「そして、二つ目」


 グレイは、言葉を続ける。


「俺の『読み』の裏をかけ。お前だけの、型にはまらん動きを見つけろ。お前が、俺に一本でも取れた時、それが第二段階の訓練の修了の証だ」

「グレイに、一本……」


 それは、今の俺にとっては、途方もなく高い壁に思えた。


「十年早いと言ったはずだ。だが、今の俺たちには、十年も待ってる時間はないんでな。一年、いや、数ヶ月で、俺に追いついてみせろ」


 その目は、本気だった。


「リリア」


 グレイは、次にリリアに向き直った。


「お前にも、課題だ。攻撃魔法の精度と威力を上げろ」

「え? 私が、攻撃魔法を……?」


 リリアは、戸惑ったように聞き返した。彼女の専門は、あくまで治癒魔法のはずだ。


「そうだ。お前の優しさは、仲間を癒すだけじゃなく、仲間を守るための力にもなるはずだ。リーパー戦で、ミナトの死角をカバーした時のように、な」

「でも、私の攻撃魔法なんて、気休め程度だよ……」

「なら、気休めじゃなくすればいい。お前の魔力量は、並の魔術師を遥かに凌駕してる。問題は、その力を攻撃に転用する『覚悟』が、お前に足りていないことだけだ」


 グレイの指摘に、リリアは唇を噛んだ。


「俺たちが深層を目指す上で、お前の攻撃魔法は、ミナトの剣、俺の盾と並ぶ、重要な武器になる。敵を殺すためじゃない。仲間を守り、道を切り拓くために、その力を使え」

「……仲間を、守るために……」


 リリアは、自分の掌をじっと見つめている。


「俺は、もう二度と、お前をただ守られるだけの存在にはしない。お前も、俺たちと背中を合わせて戦うんだ。いいな?」

「……うん!」


 リリアは、顔を上げた。

 その目には、もう戸惑いの色はない。強く、澄んだ光が宿っていた。


「よし、方針は決まったな」


 グレイは、満足そうに頷いた。


「明日から、再び地獄の訓練だ。覚悟しとけよ、二人とも」

「望むところだ!」

「私も、頑張る!」


 俺たちの声は、酒場の喧騒の中でも、力強く響き渡った。


 「監視者」の少女が仕掛けた絶望的な試練。それは、皮肉にも、俺たち三人の心を、これまで以上に固く、そして強く結びつけていた。

 俺は、明日から始まる新たな試練に、武者震いがするのを感じていた。

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