表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで出会いを求めるのは間違っている  作者: 七星鈴花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/77

第45話「砕け散る魔物と監視者の問い」

「ギィイイイイイイイイイアアアアアアッ!」


 リーパーの断末魔の絶叫が、星空の広間全体に木霊した。

 俺が放った『星詠み』の一撃は、その巨大な体の中心にある核を完全に破壊し、黒い甲殻に無数の亀裂を走らせていた。

 やがて、リーパーの巨体は、まるで砂の城が崩れるように、音もなくサラサラと黒い粒子となって霧散していく。

 そして、あれだけ無限に湧き続けていた小型の魔物たちもまた、主を失った幻影のように、次々とその姿を消していった。


 後に残されたのは、絶対的な静寂。

 そして、俺たち三人と、玉座に座る一人の少女だけだった。


「はぁっ……はぁっ……!」


 俺は、その場に膝をついた。

 リリアから受けた強化魔法の効果が切れ、凄まじい疲労感と全身の痛みが、一気に現実となって襲いかかってくる。『星詠み』を杖代わりにして、なんとか倒れずにいるのがやっとだった。


「ミナトさん!」

「ミナト!」


 リリアと、傷を押さえたグレイが、俺の元へ駆け寄ってくる。


「大丈夫か、ミナトさん! すごい技だったけど、身体への負担も……!」

「ああ……なんとかな。それより、グレイ、お前の傷は……」「大したことねえよ。リリアの魔法のおかげで、出血は止まった」


 グレイは憎まれ口を叩きながらも、俺の肩を力強く支えてくれた。


 その時、玉座から、パチパチ、と拍手をする音が響いた。

 俺たちが顔を上げると、監視者の少女が、まるで心から感心したかのように、静かに手を叩いていた。


「素晴らしいわ。本当に、素晴らしい」


 鈴が鳴るような可憐な声。

 だが、その声には、やはり何の感情も乗っていなかった。ただ、目の前で起きた現象を評価しているかのように、無機質に響くだけだ。


「まさか、あのリーパーを倒すなんて。しかも、そんな形で。私の予想を、あなたはいつも軽々と超えてくるのね、『候補者』さん」

「……お前の、負けだ」


 俺は、少女を睨みつけながら、途切れ途切れに言った。


「試練とやらは、これで終わりなんだろ。俺たちの、勝ちだ」

「勝ち負け? あら、勘違いしないで」


 少女は、くすりと可憐に笑う。


「これは、勝ち負けを決めるゲームじゃないわ。あなたの資質を、私が見極めるための試験よ。そして、あなたは今、その試験に見事に合格した。ただ、それだけのこと」


 少女の言葉に、俺はぐっと唇を噛んだ。

 こいつにとって、俺たちの死闘は、やはりただの試験でしかなかったのだ。


「……一つ、聞かせろ」


 グレイが、俺の前に一歩出て、玉座の少女に問いかけた。


「お前は、一体何者だ。何のために、ミナトをここに呼んだ。お前の言う『候補者』とは、一体何のことだ」

「あら、あなたは知る必要のないことよ、A級冒険者。これは、私と、そこの『呼ばれた者』だけの問題だから」


 少女の視線が、俺だけを捉える。

 その底知れない瞳に見つめられていると、魂の奥底まで見透かされているような、不快な感覚に陥る。


「さて、と」


 少女は、ゆっくりと玉座から立ち上がった。その小柄な身体が、初めて俺たちと同じ地平に立つ。


「二度目の試練は、あなたの合格。とても満足のいく結果だったわ。だから、ご褒美をあげましょう」

「ご褒美、だと……?」

「ええ。あなたたちが今、一番知りたいであろう情報を、一つだけ教えてあげる」


 少女はそう言うと、俺たちの間をゆっくりと歩き、リリアの目の前でぴたりと足を止めた。


「リリア……!」


 グレイが、警戒して声を上げる。


 少女は、怯えるリリアの顔を、興味深そうに、そして愛おしむように、そっと指先でなぞった。


「あなたが探している『誰か』。そして、あなたが過去に失った『誰か』。その人たちは、みんな、この『アビス』の奥深くで、今もあなたを待っているわ」

「……え?」


 リリアが、信じられないというように目を見開く。


「死んだんじゃ、ないのか……?」

「死? ふふっ、死なんて、とても安直な救済よ。彼らは、もっと素敵な形で、あなたとの再会を待っている。アビスの最深部……私のいる、本当の玉座でね」


 少女の言葉は、希望のようにも、そして、この世で最も残酷な呪いのようにも聞こえた。


「さあ、道は示されたわ」


 少女は、俺に向き直った。


「もっと、強くなりなさい。もっと、足掻きなさい。そして、全ての絶望を乗り越えて、私の元まで辿り着いてごらんなさい。その時こそ、あなたが『候補者』である本当の意味と、この世界の真実を、全て教えてあげる」

「待て!」


 俺が叫ぶのと、少女の身体が、ふっと掻き消えるようにその場からいなくなるのは、ほぼ同時だった。

 玉座も、舞台も、全てが幻だったかのように消え去り、俺たちは、再び何もない、ただ星々が流れるだけの無限空間に取り残された。


「……行っちまったか」


 グレイが、苦々しげに呟く。


「なあ、今の話、本当なのか……? リリアの探してる人が、生きてるって……」


 俺の問いに、リリアはただ、呆然と立ち尽くしていた。

 その瞳には、困惑とこれまで見たこともないほど、強く、そして危うい光が宿っていた。


「……行かなきゃ」


 リリアが、ぽつりと呟いた。


「アビスの、最深部へ。あの人が、待ってる……!」


 その声は、もはや俺やグレイに語りかけているものではなかった。

 彼女は、ただ一つの希望に、あるいは、一つの呪いに、完全に取り憑かれてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ