第43話「一筋の光明と三つの覚悟」
ガギンッ!
リーパーの巨大な鎌が、グレイの大剣を弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
体勢を崩したグレイの脇腹に、リーパーのもう一方の鎌が容赦なく突き刺さる。
「グレイさん!」
リリアの悲鳴が響いた。グレイは、膝から崩れ落ち、傷口から大量の血を流していた。
「グレイ!」
俺は、周囲の雑魚を薙ぎ払いながら、グレイの元へ駆け寄ろうとする。
だが、魔物の壁が厚く、前に進めない。
「あら、一人、動けなくなったみたいね」
玉座から、鈴が鳴るような、しかし温度のない声が聞こえた。
「やっぱり、A級冒険者と言っても、その程度なのね。少し、期待外れかしら」
その声には嘲笑の色はなく、ただ純粋な評価を述べているかのように、無機質に響いた。
「うるさい!」
俺は、玉座の少女を睨みつけながら叫んだ。
「まだ、終わってない!」
「ミナトさん、ダメ! グレイさんの治療をしないと!」
リリアが、必死の形相で回復魔法をグレイにかけ続けている。
だが、傷が深すぎるのか、回復が全く追いついていない。
このままじゃ、グレイが死ぬ。 どうすればいい。どうすれば、この状況を……!
「……ミナト」
血の気の引いた顔で、グレイが俺の名前を呼んだ。
「こいつら、本体は、あのデカいのだけだ。雑魚は、あいつが作り出してる幻影みてえなもんだ」
「幻影……?」
「ああ。だから、雑魚をいくら倒しても意味がねえ。やるなら、あのでかいのを一撃で仕留めるしかねえんだ」 「でも、どうやって! あんたでも、敵わなかったのに!」
「……一つだけ、手がある」
グレイは、懐から小さな魔石を取り出した。
それは、赤黒く、不気味な光を放っている。
「グレイさん、それ……! だめだよ、そんなもの使ったら!」
リリアが、血相を変えて叫んだ。
「黙ってろ、リリア。これしかねえんだ」
「なんだよ、それ!」
「……自爆用の魔石だ。俺の全生命力と魔力を込めて、こいつを爆発させる。うまくいけば、あのデカブツも道連れにできるはずだ」
「ふざけるな! そんなこと、させられるか!」
俺は、グレイの胸ぐらを掴んでいた。
「お前、死ぬ気かよ!」
「他に、お前たちが助かる道があるか?」
グレイの目は、静かだった。彼は、本気で、ここで命を捨てる覚悟を決めている。
「……面白いじゃない」
玉座の少女が、初めて身を乗り出してきた。
「仲間を助けるために、自分の命を投げ出すの? いいわ、すごくいい。そういう自己犠牲、私は好きよ」
その透き通る声が、俺の神経を逆撫でする。
「……嫌だ」
俺は、グレイから手を離し、立ち上がった。
「そんな方法は、絶対に認めない」
「ミナト……?」
「俺が行く。俺が、あいつを倒す」
俺は、『星詠み』を握りしめ、巨大なリーパーを睨みつけた。
「馬鹿野郎! お前が行って、何ができる!」
「できるかできないかじゃない。やるんだ。あんたは、リリアを守って、絶対に死ぬな。……これは、俺の我儘だ」
俺は、二人に背を向けた。
「リリア、頼みがある。ありったけの強化魔法を、俺にかけてくれ。今、この一撃に、全てを懸ける」
「ミナトさん……!」
リリアの涙声が、背中に突き刺さる。
それでも、俺は振り返らなかった。もう、迷っている時間はないのだから。




