第41話「黒い甲殻の群れと三人の背中」
「うおおっ、なんだこいつら!」
俺は、殺到してくる黒い甲殻の魔物の群れを前に、思わず叫んだ。
奴らの動きは、ゴブリンやコボルトとは比較にならないほど統率が取れており、まるで一つの巨大な生き物のように、波となって押し寄せてくる。
「怯むな、ミナト! リリア、援護を頼む!」
グレイが、大剣を構えて前に出る。
「わかってる! 聖なる守護よ!」
リリアの詠唱に応じ、俺たちの周囲に光の障壁が展開された。
ガチン! ガチン!
先頭の魔物たちが、障壁に次々と突撃してくる。その衝撃は凄まじく、障壁全体が激しく震えた。
「くっ……! 数が多すぎる……!」
リリアの顔が、早くも苦痛に歪む。
「リリア、障壁は俺たち三人を囲む必要はねえ! 前方だけでいい! 魔力を節約しろ!」
「で、でも!」
「いいからやれ! 背後は、俺たちが守る!」
グレイの言葉に、リリアは一瞬ためらったが、すぐに意を決して障壁の範囲を前方に集中させた。
「ミナト、行くぞ! 左右に分かれて、数を減らす!」
「ああ!」
俺とグレイは、障壁の両脇から飛び出し、魔物の群れに斬りかかった。
「はあああっ!」
俺は『星詠み』を振るい、一体の魔物の頭部を叩き割る。硬い甲殻だったが、『星詠み』の前では紙のように裂けた。
「こいつら、見た目よりは脆いな!」
「油断するな! 毒を持ってるかもしれん!」
グレイも、大剣を嵐のように振り回し、次々と魔物を薙ぎ払っていく。その姿は、まさに鬼神のようだ。
だが、敵の数は一向に減らない。
倒しても、倒しても、玉座に座る少女の背後の空間から、次々と新たな魔物が湧き出してくるのだ。
「くそっ、キリがねえぞ!」
俺は、一体の魔物を蹴り飛ばしながら叫んだ。
「ミナトさん、後ろ!」
リリアの叫び声。振り返ると、一体の魔物が俺の死角から飛びかかってきていた。
「しまっ……!」
その時、俺の背後から飛んできた光の矢が、魔物の眉間を正確に貫いた。
「聖なる光よ、彼の者を挫け!」
リリアの攻撃魔法だ。
「リリア!?」
「私も、戦う! もう、守られてるだけじゃない!」
リリアは、障壁を維持しながらも、的確な魔法で俺たちの死角をカバーしてくれていた。
「へえ……。少しは楽しめるようになってきたじゃない」
玉座の少女が、楽しそうに呟くのが聞こえた。 その言葉が、俺の怒りに火をつけた。
「ふざけるな……!」
俺は、目の前の魔物を斬り捨てると、玉座の少女に向かって叫んだ。
「お前にとっては、ただの見世物かもしれないけどな!俺たちは、生きてるんだ! 仲間を守るために、必死で戦ってるんだ!」
俺の叫びに、少女は少しだけ目を見開いた。
「……面白いことを言うのね」
「ミナト、集中しろ! 敵はそいつだけじゃねえ!」
グレイに一喝され、俺は我に返る。
そうだ。今は、目の前の敵に集中しなければ。
俺は、グレイと、そしてリリアと背中を合わせた。
「グレイ、右は任せた!」
「言われずとも!」
「リリア、援護、頼む!」
「うん!」
三人の背中が、互いの死角を補い合う。
俺たちは、この終わりの見えない戦いを、三人で乗り越える覚悟を決めた。




