第40話「再び星空へ」
「よし、見えてきたぞ」
グレイの低い声に、俺は顔を上げた。
通路の先にあるあの黒曜石の扉が、以前と変わらぬ威圧感を放ちながら、静かに佇んでいる。
「いよいよだな……」
「ああ。だが、前回とは違う。今度は、ただ試されるだけじゃ終わらせん」
グレイの言葉に、俺も強く頷く。
扉の前に立つと、俺が『星詠み』を手にしていることに呼応し、ゴゴゴ……という重い音を立てて、扉がひとりでに開いていく。
その向こうに広がるのは、やはり、あの現実離れした星空の空間だった。
「何度見ても、気味の悪い場所だな」
グレイが、吐き捨てるように言う。
「でも……すごく、綺麗……」
リリアは、頭上に流れる星々を見上げ、小さく感嘆の声を漏らした。
「気を抜くな、二人とも。ここは、敵の庭だ」
グレイを先頭に、俺たちは再び、星空の中に浮かぶ一本道を進んでいく。
前回、白銀の騎士と死闘を繰り広げた祭壇は、もうどこにもなかった。ただ、無限の宇宙空間が広がっているだけだ。
「祭壇が、消えてる……?」
「ああ。どうやら、試練を乗り越えたことで、次の道が開かれたってことらしいな」
「じゃあ、この先に、また何かいるのか……?」
俺の問いに、グレイは答えなかった。ただ、その視線は、空間の遥か先、ひときわ大きく輝く一つの星を、じっと見据えていた。
どれくらい歩いただろうか。
やがて、俺たちの前方に、巨大な円形の舞台のようなものが、宙に浮かんでいるのが見えてきた。
黒い大理石でできた広大な舞台。その中央に、一つの玉座が置かれている。
そして、その玉座に、一人の少女が座っていた。
「……!」
俺は、息を呑んだ。
見た目は、俺と同じくらいの歳だろうか。
長く、夜の闇よりも深い黒髪。人形のように整った感情の読めない顔立ち。
そして、その瞳は、まるで宇宙の深淵そのものを覗き込むような、底知れない色をしていた。
彼女が、あの公園で俺に語りかけてきた声の主――「監視者」――である。直感で、そう理解した。
「ようこそ、呼ばれた者。そして、その連れの方々」
少女が、玉座に座ったまま、静かに口を開いた。
その声は、やはり、俺が最初に聞いたあの透き通るようで、どこか無機質な響きを持っていた。
「お前が、俺をここに呼んだのか」
俺は、『星詠み』の柄を握りしめながら問う。
「ええ。あなたは、私が選んだ、新しい『候補者』だから」
「候補者……? 何の、だよ」
「ふふっ」
少女は、初めて、楽しそうに唇の端を吊り上げた。
「それは、これからあなた自身が、その身をもって知ることになるわ」
少女が、くい、と指を鳴らす。
すると、彼女の背後の空間が、水面のように揺らぎ、そこから、ぞろぞろと異形の影が現れ始めた。
それは、これまで俺たちが戦ってきたモンスターとは、明らかに違う。
全身を黒い甲殻で覆われた、昆虫のような魔物。その数は、十や二十ではない。
「面白い見世物を、見せてちょうだい」
少女は、玉座に頬杖をつきながら、まるで観劇でもするかのように言った。
「この程度で死ぬようなら、所詮、あなたもそこまでの男だったということ。さあ、始めましょうか。二度目の試練を」
無数の魔物が、一斉に俺たちに向かって殺到してきた。




