第39話「夜明けの誓いと再出発」
俺が洞窟の中に戻ると、リリアはもう泣き止んでいた。ただ、まだ少し赤い目で、心配そうに俺を見つめた。
「ミナトさん……。グレイさんは?」
「外にいるよ。……大丈夫だ。少し、話をしてきただけだから」
俺がそう言うと、リリアはほっとしたように胸をなで下ろした。
「よかった……」
しばらくして、グレイも洞窟に戻ってきた。その表情は、まだ硬いものの、昨日までの刺々しい雰囲気は消えていた。
三人の間に、気まずい沈黙が流れる。
「……悪かったな」
最初に口を開いたのは、グレイだった。
「え……?」
俺とリリアは、同時に驚いて彼を見る。あのグレイが、謝った。
「お前たちに、当たるべきじゃなかった。俺自身の問題に、お前らを巻き込んじまった」
「グレイさん……」
「だが、ミナトの言う通りだ。俺は、いつまでも過去に囚われて、前に進もうとしてなかったのかもしれん」
グレイは、俺の隣にどかりと腰を下ろした。
「ミナト。お前が、俺の荷物を半分背負うと言った言葉。あれは、嬉しかったぜ」
「グレイ……」
「だが、勘違いするな。お前に背負わせてやるつもりは、まだ毛頭ねえ。お前は、まだ自分の足で立つので精一杯のひよっこだ」
グレイは、ニヤリと意地悪く笑う。
いつもの調子だ。でも、その言葉には、不思議な温かみがあった。
「荷物を背負うだなんてのは、俺と肩を並べてから言え。それまでは、せいぜい俺の背中を見て、必死に食らいついてくるんだな」
「……ああ。望むところだ!」
「リリア」
グレイは、次にリリアに向き直った。
「お前にも、辛い思いをさせたな」
「ううん、私も、ごめんなさい。二人に、心配かけて……」
「お前の優しさは、お前の最大の武器だ。それは、俺が誰よりも知ってる。だが、使い方を間違えれば、お前自身を傷つける諸刃の剣にもなる」
グレイは、諭すように、そして、兄が妹に語りかけるように、静かに言った。
「これからは、一人で抱え込むな。辛い時は、辛いと言え。俺も、ミナトもいる。俺たちは、パーティーなんだからな」
「……うん!」
リリアの瞳から、再び涙が溢れ出した。だが、それは昨日までの悲しみの涙ではなく、温かい、安堵の涙だった。
その夜、俺たちは久しぶりに、穏やかな気持ちで眠りについた。
夜が明け、洞窟に朝の光が差し込む。
「さて、と」
グレイが、立ち上がった。その顔には、もう迷いはない。
「感傷に浸るのは、ここまでだ。行くぞ」
「どこへ?」
「決まってるだろ。黒曜石の扉の先だ。『監視者』とやらに、挨拶しに行く」
グレイの言葉に、俺とリリアは顔を見合わせ、そして力強く頷いた。
「ああ、行こう!」
「うん!」
もう、俺たちの間に、疑念やわだかまりはない。
それぞれの過去を背負い、それぞれの決意を胸に。
俺たち三人は、一つのパーティーとして、再び『アビス』の深淵へと、その一歩を踏み出した。




