第38話「洞窟の外で交わした約束」
リリアの泣き声が、洞窟の中に小さく響いている。
俺は、どうすることもできずに、ただ彼女の背中を見つめていた。
しばらくして、俺は意を決し、グレイが出ていった洞窟の外へと向かった。
彼は、洞窟の入り口の岩に腰掛け、薄暗いダンジョンの天井をぼんやりと見上げていた。その背中は、ひどく孤独に見えた。
「……リリアのこと、慰めてやらねえのか」
俺が声をかけると、グレイは視線を動かさずに答えた。
「俺に、そんな資格はねえよ」
「資格……?」
「ああ。あいつを、あんな風にした原因の一端は、俺にある」
グレイの言葉は、重く、そして苦々しい響きを帯びていた。
「なあ、グレイ。俺には、やっぱり話してはくれないのか」
俺は、彼の隣に腰を下ろした。
「あんたが何を隠してるのか、何に苦しんでるのか、俺にはさっぱりわからない。でも、見てるのは辛いんだ。あんたが一人で抱え込んでるのも、リリアが泣いてるのも」
「……」
「俺は、弱い。それは、わかってる。あんたに比べたら、赤ん坊みたいなもんだ。でも、それでも、何かできることがあるんじゃないか。話を聞くことくらいなら、できるだろ」
俺の言葉に、グレイは長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「……昔、俺にも仲間がいた」
それは、俺が初めて聞く、彼の過去の話だった。
「俺と同じくらいの歳で、馬鹿みてえに真っ直ぐで、そして、お前みてえに、どこか甘っちょろい夢を見てるような奴だった」
グレイの脳裏に浮かんでいるのは、きっと、あの情報屋ラナが言っていた「前のパーティー」の仲間なのだろう。
「そいつが、死んだ。いや……俺が、殺したようなもんだ」
「殺した……?」
「俺の判断ミスで、パーティーは壊滅状態になった。そいつは、仲間を助けたい一心で、無謀な行動に出て……そして、アビスの闇に消えた。俺は、あいつを止めることができなかった。いや、あいつの甘さを、心のどこかで見下してたから、本気で止めようとしなかったのかもしれん」
グレイは、拳を強く握りしめる。
「あの日記を書いた冒険者のリーダーも、きっと、そいつと同じだったんだろうよ。リリアの優しさに触れて、自分にも何かできると勘違いして、そして、破滅した」
「……」
「だから、俺は怖いんだ。リリアの優しさは、人を惹きつける。だが、同時に、人を狂わせる。俺は、もう二度と、目の前で仲間が死ぬのを見たくねえ。あいつを、これ以上苦しませたくねえんだよ」
初めて聞く、グレイの弱音。彼の本心だった。
「……わかったよ」
俺は、静かに言った。
「もう、無理に聞こうとはしない。あんたが、そこまで重いものを背負ってるってこと、少しだけ、わかったから」
「……ミナト」
「でも、一つだけ言わせてくれ。俺は、あんたが言ってた昔の仲間とも、日記のリーダーとも違う。俺は、もうただのガキじゃない。あんたたちの仲間だ」
俺は立ち上がり、グレイに向き直った。
「だから、信じてくれ。俺は、あんたたちを裏切ったりしない。絶対に、死んだりもしない。そして、いつか必ず、あんたが背負ってる荷物を、半分、俺に背負わせてみせる」
俺は、そう誓うように言った。
グレイは、驚いたように俺の顔を見つめ、そして、ふっと息を漏らすように笑った。
「……フン。でけえ口を叩きやがる」
それは、俺が初めて見る、彼の本当の笑顔だったのかもしれない。




