第35話「試される力と成長の証」
「グルルル……」
三体のゴブリンが、俺を威嚇するように唸り声を上げる。その手には、錆びた棍棒や石のナイフが握られていた。
以前の俺なら、この剥き出しの殺気だけで足がすくんでいたかもしれない。
だが、今は違う。
「……来いよ」
俺は『星詠み』を中段に構え、静かに挑発する。
一体のゴブリンが、甲高い奇声を上げて飛び出してきた。
棍棒を大きく振りかぶり、脳天めがけて叩きつけてくる単調な攻撃。
「遅い」
俺は、グレイとの模擬戦を思い出しながら、その動きを冷静に見極める。
踏み込みと同時に、半身になって攻撃をかわす。
空を切った棍棒の勢いで、ゴブリンの体勢がわずかに崩れた。
そこだ。
俺は、流れるような動きで反転し、『星詠み』の峰を、がら空きになったゴブリンの首筋に叩き込んだ。
「ギッ!」
短い悲鳴を上げ、ゴブリンは白目を剥いてその場に崩れ落ちる。
「ほう……」
後方から、グレイの感心したような声が聞こえた。
「無駄な動きがねえ。あの数日の訓練で、少しはマシになったじゃねえか」
「ミナトさん、すごい……!」
リリアも驚きの声を上げている。
残りの二体は、仲間がやられたことに怒り狂ったのか、甲高い奇声を上げながら左右から同時に挟み撃ちにしてきた。
「いいぞ。その方がやりやすい」
俺は、焦らなかった。むしろ、笑みさえ浮かべていた。
グレイとの模擬戦では、常に二手三手先を読んで動くことを強いられた。
それに比べれば、こいつらの連携など、あってないようなものだ。
右から来るやつの狙いは、俺の足。左のやつは、俺の脇腹。
俺は、その場で低くしゃがみ込むと同時に、左足を軸にして回転した。
「なっ!?」
ゴブリンたちの攻撃が、俺の頭上で空しく交差する。
俺は、回転の勢いをそのまま利用して、立ち上がりざまに『星詠み』を横薙ぎに振るった。
「うおおおっ!」
剣を振るう瞬間、俺は強く念じた。「斬撃を、飛ばせ!」と。
すると、あの路地裏での戦いのように、『星詠み』の刀身から青白い光の斬撃が迸った。
「やっぱりな!」
光の刃は、二体のゴブリンの胴体を正確に切り裂き、奴らは声もなく絶命した。
「……ミナト」
グレイが、俺のそばにやってきた。
「今の斬撃。お前、狙ってやったのか?」
「ああ。まだ確実じゃないけどな。この剣で『こうしたい』って強く思うと、応えてくれるみたいだ」
「……そうか」
グレイは、俺の持つ『星詠み』と俺の顔を交互に見比べ、何かを納得したように頷いた。
「お前は、その剣に選ばれただけじゃねえ。その剣を、使いこなす才能があるのかもしれんな」
「才能……?」
「だが、勘違いするな。才能だけじゃ、この先には進めん。今日の動きも、まだまだ粗い。調子に乗るなよ」
「わかってるよ。まだまだ、あんたには遠く及ばないからな」
俺たちは、憎まれ口を叩きながらも、互いに口の端に笑みを浮かべていた。
「二人とも、すごいよ! ミナトさん、本当にかっこよかった!」
リリアが、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「だろ?」
彼女の素直な賞賛に、俺は少しだけ胸を張った。
ほんの十数日前、ゴブリン一体に殺されかけていた自分が、今や三体を相手にしても息一つ乱さずに勝てた。
それは、俺がこの世界で手に入れた、最初の、そして確かな「成長の証」だった。




