第34話「再びダンジョンへ」
翌朝、夜明けと共に俺たちは宿屋を出た。
鍛冶屋で作ってもらった新しい革鎧は、俺の身体にぴったりとフィットし、動きを妨げない。
背負った『星詠み』も昨日までの重さが嘘のように、まるで自分の体の一部になったかのように感じられた。
「準備はいいな」
アビスの入り口へと続く坂道を登りながら、グレイが俺たちに確認する。
「ああ。いつでもいける」
「うん。大丈夫だよ」
リリアも新しい緑のローブを身にまとい、力強く頷いた。その表情には、もう迷いはない。
街はまだ眠りから覚めたばかりで、人通りもまばらだ。
ひんやりとした朝の空気が、俺たちの決意を研ぎ澄ませていくようだった。
アビスの入り口である巨大な洞窟の前に立つ。
数日前、初めてここから街を見下ろした時とは、見える景色が全く違っていた。
あの時は、ただ異世界に来たことへの高揚感と未知への期待しかなかった。
だが、今は違う。
この先に待つ「監視者」。リリアとグレイが抱える過去。そして、『星詠み』を狙う者たちの影。
これから始まるのは、もう「冒険ごっこ」ではない。命と覚悟を懸けた本物の戦いだ。
「よし、行くぞ」
グレイを先頭に、俺たちは再び、薄暗いダンジョンの内部へと足を踏み入れた。
ひんやりとした、湿った空気。壁から滴る水の音。黴と土の匂い。
一度外の世界を知ってしまった後だと、この閉塞感は以前にも増して重く感じられた。
「なあ、グレイ。どこまで潜るつもりなんだ?」
しばらく歩いたところで、俺は尋ねた。
「まずは、あの黒曜石の扉があった場所までだ。そこが、奴の領域への入り口で間違いないだろう」
「また、あの星空の場所に行くのか……」
白銀の騎士との死闘が、脳裏に蘇る。
「ああ。だが、今回は前回とは違う。お前も、ただのガキじゃねえんだろ?」
グレイが、ニヤリと口の端を吊り上げて言った。 「……当たり前だ」
俺は、『星詠み』の柄を強く握りしめる。
「ミナトさん、グレイさん、気をつけて。モンスターの気配がする」
リリアが、周囲を警戒しながら小声で言った。
「ほう。街で休んでいる間に、少しは感知能力もマシになったみてえだな」
「もう、グレイさんったら」
軽口を叩きながらも、三人の間には心地よい緊張感が満ちていた。以前のような、ぎこちない空気はない。
通路の角から、三体のゴブリンが姿を現した。
「ミナト」
グレイが、短く俺の名前を呼ぶ。
「ああ。わかってる」
俺は、彼の言葉の意味を即座に理解した。これは、俺の力を試すための、再出発の儀式だ。
「リリア、グレイ。手出しは無用だ」
俺は二人にそう言うと、一人でゴブリンたちの前に立った。
「今の俺が、どこまでやれるのか。試させてもらうぜ」
俺は『星詠み』を抜き放ち、その黒い刀身を敵に向ける。
刀身に宿る星々が、俺の決意に応えるように、静かに、力強く輝き始めた。




