第33話「それぞれの誓いと進むべき道」
重苦しい沈黙が、宿屋の部屋を支配していた。誰もが、次に何を言うべきかを見つけられずに、ただ時間の経過を待っているかのようだった。
その沈黙を破ったのは、俺だった。
「……リリア」
俺は、俯いたままの彼女に、ゆっくりと声をかけた。
「さっきは、ごめん。お前を疑うようなこと言って……。問い詰めるみたいな言い方して、本当に悪かった」
俺の言葉に、リリアはゆっくりと顔を上げた。その目には、まだ涙の跡が残っている。
「ううん……。ミナトさんが、そう思うのも無理ないよ。私が、ちゃんと話さなかったから……」
「いや。俺が、焦りすぎてたんだ」
壁に寄りかかっていたグレイが、静かに口を開いた。
「……ミナト。お前の気持ちも、わかる。何も知らされずに、訳の分からんことに巻き込まれてるんだ。苛立つなという方が無理な話だ」
それは、グレイからの、初めての明確な理解の言葉だった。
「だが、それでも、俺はまだ話せん。話すわけには、いかないんだ」
「……」
「これは、俺とリリアの問題だ。俺たちが、過去にケリをつけなきゃならん問題なんだよ」
グレイの言葉は、拒絶ではなかった。それは、彼の不器用な誠意の表れのように、俺には聞こえた。
「わかったよ」
俺は、大きく息を吸って、言った。
「もう、無理には聞かない。でも、一つだけ約束してくれ」
「……なんだ」
「いつか、あんたたちが話せる時が来たら、必ず、俺に全部話してほしい。隠さずに、全部だ」
俺は、二人をまっすぐに見つめた。
「俺は、あんたたちの仲間だと思ってる。だから、あんたたちが背負ってるものを、俺にも一緒に背負わせてほしいんだ」
俺の言葉に、リリアは目を見開き、そして、ふわりと微笑んだ。それは、ここ数日で見せた中で、一番穏やかで、心からの笑顔に見えた。
「……うん。約束する。ありがとう、ミナトさん」
グレイは、何も言わずに、ただフン、と鼻を鳴らした。だが、その表情は、少しだけ和らいでいるように見えた。
「さて、と。湿っぽい話はここまでだ」
グレイが、わざと明るい声を出した。
「これからどうする? 街で情報を集め続けるか? それとも……」
「ダンジョンに戻ろう」
俺は、即答した。
「俺を呼んだ『監視者』も、リリアの過去も、全部、あのダンジョンに繋がってる。なら、答えはそこにあるはずだ」
「……そうだな」
グレイも、頷く。
「それに、俺はもっと強くならなきゃならない。こんなところで、足踏みしてる時間はないんだ」
俺は、テーブルの上に置いた『星詠み』を手に取った。
真実を知るために、もっと強くならなければならない。
いや、違う。いつか、二人がその重荷を俺に預けてくれる日まで。俺は、ただひたすらに強くなる。
二人を守れるだけの、二人を支えられるだけの、揺るぎない力を手に入れる。それが、今の俺にできる、唯一のことだ。
「よし、決まりだな」
グレイが、立ち上がった。
「明日、夜が明けたら、ダンジョンに戻る。準備しとけよ」
「ああ!」
「うん!」
俺とリリアは、力強く頷いた。
部屋の窓から差し込む月明かりが、俺の持つ『星詠み』の刀身を照らし、そこに宿る無数の星々を、静かに輝かせていた。




