第31話「新しい鎧と消せない疑念」
情報屋の酒場を出た後、俺たちは重い沈黙に包まれて宿屋への道を歩いていた。
ラナが残した言葉が、鉛のように俺たちの心にのしかかる。『星詠み』を狙う新たな敵。そして、リリアの出会いと酷似した奇妙な噂。
「なあ、グレイ。さっきの話……」
俺が口を開きかけると、グレイはそれを手で制した。
「その話は、宿に戻ってからだ。どこで誰が聞いてるかわからん」
グレイの鋭い視線が、素早く周囲を窺う。
彼の言う通りだ。今の俺たちは、常に狙われている。
「……そうだ。ちょうどいい。鍛冶屋に寄って、注文の品を受け取っていくぞ」
グレイはそう言うと、進路を変えて職人街の方へと向かった。
鍛冶屋のドバルは、店の前で汗を拭いながら、巨大な金槌を磨いていた。
「おう、来たか。ちょうど出来上がったところだぜ」
ドバルは、俺たちに気づくと、ニヤリと笑った。
「まずは、坊主のからだ」
ドバルが店の奥から持ってきたのは、黒く染められたしなやかな革鎧だった。
胸や肩の部分は金属で補強されており、シンプルながらも頑丈そうだ。手甲とすね当てもセットになっている。
「どうだ。これなら、その大層な剣の動きを邪魔しねえだろう。おまけで、軽い衝撃吸収の魔法もかけといてやったぜ」
「すげえ……! これが、俺の……」
俺は、初めて手にする自分だけの鎧に、思わず感嘆の声を上げた。
「次は、リリア嬢ちゃんのだ」
ドバルが次に広げて見せたのは、深い緑色を基調とした、美しい刺繍の入ったローブだった。
「わあ……きれい……」
「見た目だけじゃねえ。こいつには、高純度の魔石を織り込んである。防御魔法の効果を増幅させるし、何より、あんた自身の魔力の回復も早めてくれるはずだ」
「本当ですか!? ありがとうございます、ドバルさん!」
リリアは、心から嬉しそうにローブを受け取った。
「代金は、ギルドにツケといたからな。グレイ、お前さんの大剣も、少し刃こぼれしてたから直しといたぜ」
「助かる」
「礼には及ばん。それより、坊主」
ドバルは、俺に向き直った。
「その剣に、見合う男になれよ。そいつは、ただの鉄の塊じゃねえ。持ち主の魂を映す鏡だ。お前さんが曇れば、剣も曇る。忘れんじゃねえぞ」
「……ああ。肝に銘じておく」
ドバルの言葉は、無骨だが、不思議な重みがあった。
新しい装備を受け取り、俺たちは再び宿屋への道を歩き出す。
俺は、真新しい革鎧の感触を確かめながら、先ほどのラナの言葉を思い出していた。
「ダンジョンの深層で、銀髪翠眼の少女に助けられた」
それは、俺とリリアの出会いそのものだ。偶然にしては、出来すぎている。
俺は、隣を歩くリリアの横顔を盗み見た。
彼女は、新しいローブを嬉しそうに抱きしめている。彼女の笑顔を見るたびに、胸の奥に生まれた小さな疑念が、ちくりと痛んだ。
この出会いは、本当に運命だったのだろうか。それとも……。
俺は、その問いを口にすることができず、ただ黙って歩き続けるしかなかった。




