第28話「師弟の誓いと最初の訓練」
鍛冶屋と情報屋を回った後、俺たちは宿屋に戻った。
「さて、ガキ」
部屋に入るなり、グレイが俺に向き直った。その目は、昨日までとは違う師匠としての厳しい光を宿している。
「約束通り、お前を鍛え直す。まずは、剣の素振りからだ。日が暮れるまで、ひたすら振り続けろ」
「え、また素振りからかよ! 俺、もうモンスターも倒せるようになったのに!」
俺が不満を漏らすと、グレイは容赦なく俺の頭を小突いた。
「馬鹿野郎。お前が昨日勝てたのは、全て『星詠み』の力だ。お前自身の力じゃねえ。基礎ができてねえ奴が、いくら良い剣を持ったところで、ただの棒切れを振り回してるのと同じだ」
「でも……」
「口答えするな。それとも、あの路地裏で、また何もできずに震えていたいか?」
グレイの言葉に、俺は唇を噛んだ。
そうだ。あの時、俺は結局、この剣の力に助けられただけだ。自分の力で勝ったわけじゃない。
「……わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
俺は『星詠み』を抜き、宿屋の裏にある小さな中庭に出た。
「言っとくが、ただ振ればいいってもんじゃねえぞ」
グレイは、腕を組んで壁に寄りかかりながら言った。
「一振り一振りに、明確な敵をイメージしろ。どこを、どう斬るのか。どうすれば、最小の動きで、最大の威力を出せるのか。考えろ。ひたすら考えながら、身体に叩き込め」
「敵を、イメージ……」
俺は、これまで戦ってきたゴブリン、コボルト、そしてあの白銀の騎士の姿を思い浮かべた。
ブンッ。
俺は、グレイに教わった通り、腰の回転を意識して剣を振るう。
「違う。手首が硬い。もっとしなやかに、剣の重さを利用しろ」
「こうか?」
「まだだ。踏み込みが半歩遅い。斬る瞬間と、足が地を踏む瞬間を、完全に一致させろ」
グレイの指示は、的確で、一切の無駄がない。
「ミナトさん、頑張って!」
部屋の窓から、リリアが顔を覗かせて応援してくれる。
「ああ!」
俺は、彼女の声に励まされ、再び剣を振るった。汗が全身から噴き出し、腕は鉛のように重くなる。
だが、俺は歯を食いしばって剣を振り続けた。
もう、二人に守られてばかりなのは嫌だ。この手で、二人を守れるだけの力が欲しい。その一心だった。
どれくらいの時間が経っただろうか。太陽が西に傾き、空が茜色に染まり始めた頃。
「……そこまでだ」
グレイの声で、俺はその場にへたり込んだ。
もう、指一本動かすのも億劫だ。
「ミナトさん、お疲れ様! お水、持ってきたよ!」
リリアが、水とタオルを持って駆け寄ってきてくれた。
「ありがとう、リリア……」
「どうだ、ガキ。何か掴めたか」
「……ああ。少しだけ」
俺は、自分の掌を見つめた。豆が潰れ、血が滲んでいる。だが、不思議と痛みは感じなかった。
「この剣、振るたびに、ほんの少しだけ軽くなるような気がするんだ。まるで、俺の身体に馴染んでくるみたいに」
「フン。ようやく、その剣がお前を主として認め始めたってことだ」
グレイは、そっけなく言った。
「だが、まだ入り口に立ったに過ぎん。明日からは、対人戦闘の訓練も加える。覚悟しとけ」
「望むところだ」
俺は、痛みと疲労で震える腕で、それでも力強く答えた。
夕焼けに照らされた『星詠み』の刀身が、まるで俺の決意に応えるかのように、静かな星々の光を瞬かせていた。




