第26話「宿屋の夕食と都合のいい夢」
「いやあ、それにしても今日のミナトさん、すごかったね!」
宿屋の一室。木のテーブルを囲みながら、リリアが興奮気味に言った。
俺たちは、ギルドで紹介された安宿に部屋を取り、そこで夕食を摂っていた。
今日のメニューは、豆と野菜がたっぷり入ったスープと、黒パンだ。
「ああいうチンピラ、たまに絡んでくるけど、あんなに綺麗に返り討ちにするなんて!」
「ま、まあな。ほとんど、グレイが脅したおかげだけど」
俺は、少し照れながらスープをスプーンでかき混ぜる。
「フン。結果的に追い払えたからいいものの、お前の剣筋はまだなってねえ。あれで勝てたのは、完全にその剣のおかげだ」
向かいの席で、グレイが腕を組みながらそっけなく言う。
「わかってるよ。なあ、あの光る斬撃、あれ、一体何だったんだ? 俺、何もしてないのに、勝手に飛び出して……」
「言ったはずだ。その剣が、お前に応えたんだろう、と」
グレイは、俺の持つ『星詠み』を一瞥した。
俺は、襲撃の後、片時もこの剣を体から離していない。
「『星詠み』は、ただの魔法剣じゃねえ。意思を持つアーティファクトだ。持ち主の意志や危機に呼応して、秘められた力を解放することがある。お前が『守りたい』『勝ちたい』と強く願ったから、力の片鱗を見せたのさ」
「力の片鱗……。まるで、どこかの物語みたいだな。主人公が持ってる伝説の剣が、勝手に敵を倒してくれる、都合のいい力みたいな……」
俺がそう呟くと、グレイは盛大にため息をついた。
「お前のその、物語の英雄みたいな甘い考えは一度全部捨てろ。いいか、どんな強力な武器も、使い手が未熟なら宝の持ち腐れだ。むしろ、その力に振り回されて自滅する。今日の光る斬撃も、お前が狙って出せたわけじゃねえだろ?」
「……うっ」
図星だった。
「その力を自在に操れるようになって、初めてお前は、その剣の本当の主になれる。明日から、本格的に叩き直してやるから、覚悟しとけ」
「……望むところだ」
気まずい沈黙が流れたところで、リリアが話題を変えるように口を開いた。
「でも、街に来てよかったね。これで少しはゆっくりできるし」
「そうだな。ダンジョンの中じゃ、こんな温かいスープも飲めないしな」
俺は、素朴だが滋味深いスープを口に運びながら言った。
「それに、街なら、私の探し物も見つかるかもしれないし」
「リリアの探し物、か。何か手がかりはあるのか?」
俺が尋ねると、リリアは少し寂しそうに首を横に振った。
「ううん、全然。ただ、すごく昔に、このアークライトで別れたっていうことしか……。だから、ダンジョンの中にあるっていうのも、私の勝手な思い込みだったのかも」
「そっか……」
「感傷に浸るのはそこまでにしとけ」
グレイが、パンをちぎりながら言った。
「街の情報屋を当たれば、何か分かるかもしれん。その剣を狙う奴らへの牽制も兼ねて、明日はまず、腕の立つ鍛冶屋と裏社会に顔が利く情報屋に顔を売っておく」
「情報屋?」
「ああ。この街で生きていくには、力だけじゃなく、情報も武器になる。特に、お前みてえに面倒なもんを背負っちまった奴はな」
グレイはそう言うと、俺をじろりと見た。
その目は、路地裏で俺を試すような目つきとは違う、どこか師匠のような、あるいは、兄のような響きを帯びているように感じられた。
俺は、明日からの「訓練」に、少しだけ胸が躍るのを感じていた。.




