第25話「星詠みの初陣と力の片鱗」
「囲め! ガキの方から先にやれ!」
リーダー格の男が叫び、四人のうち二人が俺に、残りの二人がグレイに襲いかかった。
「ミナトさん!」
リリアが杖を構えるが、グレイがそれを手で制した。
「リリア、お前は手を出すな。こいつにやらせろ」
「でも!」
「こいつが、覚悟を決めたんだ。俺たちは、それを見届ける」
「なめるなよ、ガキが!」
目の前のチンピラの一人が、錆びた斧を振りかぶって突進してくる。
俺は、グレイに教わった通り、腰を落として『星詠み』を構えた。
不思議だった。あれだけ重く感じた錆びた剣とは違い『星詠み』はまるで自分の体の一部のように、しっくりと手に馴染む。
相手の動きが、やけに遅く見える。
「そこだ!」
俺は、斧が振り下ろされるより早く、一歩踏み込んで剣を振るった。
キィン、という甲高い音。
俺の剣は、いとも簡単に相手の斧を弾き飛ばした。
「なっ!?」
驚愕する男のがら空きの胴体に、俺は剣の柄を叩き込む。
「ぐえっ!」
男は短い悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。
「テメェ!」
もう一人の男が、短剣を手に横から襲いかかってくる。
俺は振り返らず、ただ『星詠み』を振るった。刀身に宿る星々が、一瞬だけ強く輝く。
すると、剣を振るった軌跡に沿って、青白い光の斬撃が飛び出した。
「え……?」
俺自身が、一番驚いていた。
光の斬撃は、短剣の男の足元に突き刺さり、石畳を抉る。
「ひっ……!」
男は腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「馬鹿野郎! 何をもたもたしてやがる!」
リーダーの男が怒鳴るが、その声も焦りに満ちていた。
グレイに斬りかかった二人は、すでに大剣の峰打ちで打ちのめされ、地面に転がっている。
グレイは、一歩も動いていない。
「……どうやら、形勢逆転、てやつみたいだな」
俺は、剣の切っ先を、腰を抜かした男に向けた。
「まだ、やるか?」
「ひ、ひぃぃ! す、すいませんでした!」
男は情けない悲鳴を上げ、這うようにして逃げていく。
「おい、お前」
グレイが、唯一残ったリーダーの男――顔に傷のある大男――に、低い声で言った。
「どうする? まだ、その剣が欲しいか?」
「く……くそっ! 覚えてろよ!」
男は、捨て台詞を吐くと、仲間を置き去りにして一目散に逃げ出した。
「……終わった、か」
俺は、ふぅ、と大きく息を吐いた。『星詠み』を握る手が、まだ微かに震えている。
「ミナトさん、大丈夫だった!?」
リリアが駆け寄ってくる。
「ああ。なんとか……。なあ、グレイ。今の、光る斬撃は……」
「さあな。その剣が、お前に応えたんじゃねえのか」
グレイは、打ちのめした男たちを一瞥すると、興味なさそうに言った。
「思ったより、様になってきたじゃねえか」
「……」
素直じゃない、グレイなりの賛辞。それが、なぜか少しだけ嬉しかった。
「いつまでも油断するな。今回はこれで済んだが、次もそうだとは限らん」
グレイは、俺に向き直った。
「その剣は、お前を選んだ。なら、お前は、その力に相応しい使い手にならなきゃならねえ。わかるな?」
「……ああ。わかってる」
俺は、『星詠み』の黒い刀身を見つめながら、強く頷いた。
この剣は、ただの武器じゃない。俺の覚悟を、そして俺の未来を映し出す、鏡のようなものなのだ。
俺は、この路地裏で、その重さと価値を、改めて思い知らされた。




