第24話「災いの足音と路地裏の牙」
「……なんか、すげえ見られてる気がする」
ギルドを出て、再び雑踏の中を歩きながら、俺は背中に突き刺さる無数の視線に居心地の悪さを感じていた。
「当たり前だ。お前は今、歩く宝箱みてえなもんだからな」
グレイは、吐き捨てるように言った。
「そんな……。でも、ギルドの中だったし、街の真ん中だぞ。まさか、襲ってくるなんて……」
「ミナトさん、大丈夫だよ。私とグレイさんがついてるから」
リリアが、不安げな俺を励ますように微笑む。
「甘えな、リリア」
グレイは、前を見据えたまま冷たく言った。
「欲望ってのは、場所も理屈も選ばねえ。特に、このアークライトみてえな吹き溜まりではな。……おい、来るぞ」
「え?」
「三匹、いや四匹か。ご丁寧につけてきやがった」
グレイの言葉に、俺の心臓がどきりと跳ねる。
振り返ろうとする俺の頭を、グレイが軽く叩いた。
「見るな。気づいてないと油断させろ。……こっちだ」
グレイは、わざと人通りの少ない方へ、そして薄暗い路地裏へと俺たちを誘導した。
袋小路になった場所で、グレイは足を止めた。
「よう。いつまでコソコソついてくるつもりだ? 用があるなら、さっさと言えや」
グレイがそう言うと、路地の入り口から、下卑た笑いを浮かべた四人の男たちが姿を現した。ギルドで俺たちに絡んできたあのドワーフも混じっている。
「へへへ、話が早くて助かるぜ、A級のグレイさんよぉ」
リーダー格と思しき、顔に傷のある大男が前に出る。
「あんたほどの人が、そんなガキのお守りたぁ、感心しねえな」
「うるせえ。で、何の用だ」
「わかってるくせに。……そこのガキが持ってる、その綺麗な剣。そいつを、俺たちに譲ってもらおうか」
男の目が、俺の背負う『星詠み』を、ねめつけるように見た。
「なんだと……!」
「お前さんみてえなひよこにとって、不相応なお宝だ。怪我したくねえだろ? 大人の言うことは、素直に聞いとくもんだぜ」
男たちの目が、欲望にぎらついている。本気だ。こいつら、本気で奪いに来ている。
「……断ると言ったら?」
俺は、震える声をなんとか絞り出した。
「決まってるだろ。力ずくだ」
「やめとけ」
グレイが、静かに、だが重く言った。
「お前らじゃ、俺の相手にはならん。怪我で本調子じゃねえ今の俺でもな」
「ハッ! 強がるなよ、グレイ! アルラウネの変異種にやられたって話は、もう聞いてるんだぜ! それに、俺たちの狙いは、そこのガキだけだ!」
男たちは、完全に俺を侮りきっている。
「……面倒なこった」
グレイは、心底うんざりしたようにため息をつくと、背中の大剣をゆっくりと引き抜いた。
「ミナト、お前も抜け」
「え……?」
「いつまでも守られてるだけじゃ、何も変わらんだろうが。自分のもんは、自分で守る覚悟を見せろ」
グレイの言葉に、俺は唇を噛み締めた。
そうだ。もう、守られるだけなのはやめると誓ったばかりじゃないか。
俺は、震える手で、背中の『星詠み』を抜いた。星々を宿した黒い刀身が、薄暗い路地裏で妖しい光を放つ。
「へっ、その剣を抜いたか! ありがてえ、手間が省けたぜ! やれ、お前ら!」
リーダーの号令と共に、四人の男たちが一斉に襲いかかってきた。




