第22話「冒険者ギルドと現実的な危険」
「うわっ、人が多いな……」
アークライトの街並みは、俺の想像を遥かに超えていた。
石畳の道を、様々な種族が行き交い、道の両脇には武器屋、防具屋、得体の知れないものを売る露店などがひしめき合っている。
全てのものが珍しく、俺は完全に田舎から出てきた観光客のように、キョロキョロと辺りを見回していた。
「おい、よそ見するな。はぐれるぞ」
グレイが、俺の首根っこを掴んで人混みの中を進んでいく。
「わ、わかってるよ!」
「グレイさん、ミナトさんも初めてなんだから、もう少し優しく……」
リリアが苦笑しながら、俺たちを追いかける。
やがて俺たちが辿り着いたのは、街の中でも一際大きな木造の建物だった。
看板には、交差した剣と盾の紋章が描かれている。
「ここが、冒険者ギルドだ」
グレイが言う。
扉を開けると、むわっとした熱気と酒と汗の匂い、そして大勢の人々の喧騒が俺たちを迎えた。
屈強な鎧の戦士、ローブ姿の魔術師、身軽そうな斥候。
皆、一様に鋭い目つきをしていて、俺のような素人がいるべき場所ではないような気がしてくる。
「よう、グレイ。生きてたか。そのザマは、また派手にやり合ったみてえだな」
カウンターの向こうから、片眼鏡をかけた気の強そうな女性が声をかけてきた。
「まあな。少し面倒な奴に絡まれてな、ギルドマスター」
「あんたを面倒がらせる奴がいるとはね。で、そっちのガキは誰だい? 見ない顔だけど」
ギルドマスターと呼ばれた女性は、品定めするような視線を俺に向ける。
「こいつはミナト。見ての通りの世間知らずのガキだ。今日から俺のパーティーで預かる。正式に登録してやってくれ」
「へえ。あんたが新人を拾うなんて、明日は槍でも降るんじゃないかい?」
ギルドマスターは面白そうに笑うと、俺に1枚の羊皮紙を差し出した。
「名前と、主な得物やスキルを書きな。登録料は銀貨10枚。持ってなきゃ、そこの親御さんにでも借りるんだね」
「お、親御さんじゃねえ!」
俺は慌てて否定する。
「金は俺が払う」
グレイが、懐から銀貨を10枚取り出してカウンターに置いた。
俺は、震える手で羊皮紙に自分の名前を書き込む。
「主な得物やスキル」の欄で、手が止まった。俺に、スキルなんてない。
「……おい、どうした」
「いや……スキルなんて、俺には……」
すると、グレイが俺の手から羽ペンをひったくり、「剣術(見習い)」と乱暴に書き込んだ。
「これでいい。ほら、出しな」
「え?」
「お前の新しい剣だ。登録には、武器の鑑定も含まれてる」
俺は言われるがまま、背負っていた『星詠み』をカウンターの上に置いた。
その瞬間、ギルド内の喧騒が、ぴたりと静まり返った。
全ての視線が、俺の剣に注がれている。驚愕、羨望、そして、いくつかの剥き出しの嫉妬と貪欲。
「……おいおい、冗談だろ、グレイ」
ギルドマスターのいつもは余裕綽々とした声が、わずかに上ずっていた。
「あんた、どこでこんな代物を……? これは、ただの魔法剣じゃ済まないよ。アーティファクト……伝説級の逸品じゃないか」
「まあ、色々あってな」
グレイは、周囲の視線を意にも介さず、短く答える。
「坊主、お前さん、とんでもねえお宝を手に入れたな」
カウンターの隣で酒を飲んでいた、屈強なドワーフの男が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「だがな、身の丈に合わねえ宝は、命取りになるぜ?」
その言葉は、親切な忠告のようにも、あるいは、脅しのようにも聞こえた。
俺は、ただゴクリと唾を飲むことしかできなかった。
この世界では、力だけじゃない。富や名声もまた、現実的な危険を伴うのだと、初めて肌で感じた瞬間だった。




