第21話「初めて見る異世界の空と迷宮都市」
「……よし、こんなもんか」
グレイは、上半身に包帯を巻かれた痛々しい姿ながらも、ゆっくりと立ち上がった。
リリアの懸命な治療のおかげで、命に別状はないようだ。
「グレイさん、もう動いて平気なの?」
「ああ。骨には異常はねえ。これくらいなら、歩くのに支障はねえよ」
グレイはそう言うと、俺に向き直った。
「……ガキ。お前の願い、聞いてやる」
「え……?」
「強くなりたいんだろ。この剣の使い方を知りたいんだろ。だったら、まずはそのナマクラみてえな身体を叩き直す。ついてこい」
「どこへ行くんだ?」
「街だ。迷宮都市アークライト。こんな場所でこれ以上、お前に剣のイロハを教えてる時間はねえ。それに、お前たちの装備も、そろそろ新しいものに買い替える必要がある」
街。アークライト。
その言葉に、俺の心は微かに高鳴った。
異世界に来てから、俺はずっとこの薄暗いダンジョンの中にいた。外の世界がどうなっているのか、全く知らない。
「……わかった。行くよ」
俺たちは、星空の広間を後にした。
不思議なことに、あれだけ重かった黒曜石の扉は、俺が『星詠み』を手にしてからは、まるで意思があるかのように、俺たちが近づくとひとりでに開閉するようになった。
「便利なこったな」
グレイは面白くなさそうに言うが、そのおかげで俺たちはスムーズに先へ進めた。
帰り道は、奇妙なほど静かだった。
あれだけいたモンスターの姿は一匹も見当たらない。
「やっぱり、静かだな」
「ああ。あの『監視者』の領域を抜けたことで、雑魚どもは元の巣に戻ったか、あるいは……」
グレイは何かを言いかけたが、それ以上は口にしなかった。
数時間後。
「……光だ」
リリアが、前方を指さして言った。
通路のずっと先に、今まで見てきたランプの灯りとは違う、白く、力強い光が見える。
「あれが、出口だ」
グレイが言う。
俺たちは、光に向かって足早に進んだ。
光はどんどん大きくなり、やがて俺たちは、洞窟のような場所から外へと飛び出した。
「うわ……」
思わず、声が漏れた。
目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる真っ青な空だった。
現実世界で見ていたくすんだ灰色がかった空じゃない。
インクをぶちまけたような吸い込まれそうなほどの深い青。
そして、太陽の光が、肌をジリジリと焦がすように熱い。
「これが……この世界の、空……」
俺が空に見とれていると、グレイが俺の頭を小突いた。
「いつまで空なんざ見てやがる。あれを見ろ」
グレイが指さした先。そこには、信じられない光景が広がっていた。
巨大な縦穴――巨大なダンジョン『アビス』――の縁に沿うようにして、無数の建物が、まるで崖に張り付くようにして立ち並んでいる。石造りの家、木造の塔、レンガの壁。
道行く人々は、俺と同じ人間もいれば、屈強なドワーフ、耳の長いエルフなど様々だ。
活気のある声、鍛冶の音、酒場の喧騒、それら全てが混じり合って、街全体が生きているかのように脈打っている。
これが、迷宮都市アークライト。
「すげえ……」
俺は、ただ呆然と、その光景を眺めていた。
ラノベで読んだ、剣と魔法の世界。それは、確かにここに存在していた。
「感動してる暇はねえぞ、ガキ」
グレイが、俺の肩を叩いた。
「説教は後だ。まずは、ギルドに行って、今回の報告とお前の正式な登録を済ませる」
「ギルド……」
「ああ。お前が本当の意味で、この世界の冒険者になるための最初の場所だ」
グレイはそう言うと、俺たちを促し、活気あふれる街の中へと歩き出した。




