第20話「星詠みの剣と新たな誓い」
「グレイさん!」
「グレイ!」
俺とリリアは、膝から崩れ落ちたグレイに駆け寄った。
彼の黒い革鎧は至る所が裂け、全身おびただしい数の傷から血が流れている。スターダスト・スラッシュをその身で受け止めた代償は、あまりに大きかった。
「……うるせえな。死んでねえよ」
グレイは、荒い息をつきながらも、憎まれ口を叩いた。
「でも、すごい怪我だよ! 今すぐ治療しないと!」
リリアは泣きながら、すぐに両手をグレイの傷にかざす。
「聖なる光よ、我らの傷を癒し給え! 集いし同胞に、癒しの恵みを!」
彼女の悲痛な詠唱に応え、掌から溢れ出した温かい光が、グレイの無数の傷をゆっくりと包み込んでいく。
「リリア、魔力は大丈夫なのか?」
「私のことはいいの! それより、グレイさんが……!」
彼女の顔は蒼白で、魔力消耗の激しさが見て取れた。それでも、彼女は必死に魔法を維持し続けている。
俺は、何もできずに、ただその光景を見つめていた。
グレイが、文字通り命を懸けて俺のために道を作ってくれた。
リリアが、自分の限界を超えて俺たちを支えてくれた。
なのに、俺は……。
ふと、自分の手元に視線を落とす。そこには、無残に折れた錆びた剣の柄だけが、虚しく握られていた。
「……ミナト」
グレイが、俺の名前を呼んだ。
「いつまでそこで突っ立ってやがる」
「……」
「お前が、やるべきことがあるだろうが」
グレイは、顎で祭壇の方をしゃくった。
そこには、あの白銀の騎士が遺した剣『星詠み』が、静かに突き立てられている。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、再び祭壇へと向かった。
さっきとは違う。もう、何かに引き寄せられるような感覚はない。
自分の意志で、自分の足で、一歩一歩、剣へと近づいていく。
祭壇の前に立ち、剣の柄に手を伸ばす。
今度は、光は放たれなかった。ただ、ひんやりとした金属の感触が、俺の掌に伝わる。
ゆっくりと、剣を祭壇から引き抜いた。
ずしり、とした重み。だが、それは不快な重さではない。
自分の腕に、しっくりと馴染むような、不思議な一体感があった。
刀身は、まるで星空の闇を切り取って鍛えたかのように、深く、吸い込まれるような黒色をしている。
そして、その刀身に沿って、本物の星々のように、微細な光の点がいくつも明滅していた。
「それが、『星詠み』……」
治療を続けながら、リリアが感嘆の声を漏らす。
「……ああ」
俺は、その剣を握りしめた。
騎士は言った。「運命を切り拓く力であると同時に、重い宿命を背負う証でもある」と。
今の俺に、そんなものを背負う資格があるとは思えない。 だけど。
「グレイ、リリア」
俺は、二人に向き直った。
「俺、決めたよ」
「……何をだ」
「もう、あんたたちの後ろに隠れて、守られてるだけなのはやめる。これからは、俺が、この剣であんたたち二人を守る」
俺の言葉に、グレイは呆れたように鼻で笑った。
「……フン。寝言は寝て言え、ガキ。その剣を手にしたくらいで、急に強くなったとでも思ったか?」
「今はまだ、あんたには敵わないかもしれない。でも、いつか必ず、あんたを超えてみせる。だから……」
俺は、深々と頭を下げた。
「だから、教えてくれ。もっと強くなる方法を。この剣の、本当の使い方を」
俺の生まれて初めての心の底からの願いだった。
グレイは何も言わず、ただじっと俺を見ていた。
リリアも、治癒の手を止め、固唾を飲んでグレイの答えを待っている。
星空の広間に、静かな時間が流れた。




