第19話「星屑の剣技と託された一撃」
「まずい! 何か来るぞ!」
グレイが叫ぶ。
白銀の騎士が持つ『星詠み』から放たれる青い光は、もはやただの光ではなかった。
それは凝縮された魔力の塊であり、空間そのものを歪ませるほどの力を秘めている。
「リリア! 最大の防御魔法を!」
「わ、わかってる! 邪なる魔を弾く、聖域の盾!」
リリアが杖を高く掲げると、俺たちの前に幾重にも重なった光の障壁が出現した。
「無駄だ」
騎士の無機質な声と共に、『星詠み』が振るわれる。騎士が剣を振るうたびに、その軌跡から無数の光の粒――星屑のようなもの――が撒き散らされ、それらが全て、弾丸となって俺たちに襲いかかってきたのだ。
「スターダスト・スラッシュ……!」
グレイが、その技の名を苦々しげに呟いた。
ドドドドドッ!
無数の光弾が、リリアの作り出した障壁に激突し、凄まじい音と衝撃を撒き散らす。
「きゃあっ!」
障壁に亀裂が入り、リリアが小さく悲鳴を上げた。
「リリア!」
「だ、大丈夫……! でも、長くはもたない……!」
彼女の顔は青ざめ、杖を握る手が小刻みに震えている。
「くそっ、このままじゃジリ貧だ!」
グレイが歯噛みする。
「どうするんだよ、グレイ! あの攻撃が止まらない限り、俺たちは近づくことすらできねえ!」
「……ミナト」
グレイが、俺の名前を呼んだ。
「最後の賭けだ。俺がこいつを止める。お前は、俺が作った一瞬の隙を突け」
「止めるって、どうやって!」
「見てりゃわかる」
グレイは、覚悟を決めたように深呼吸を一つした。
「リリア、俺が合図したら障壁を解け。そして、ありったけの強化魔法を、ミナトにかけろ。俺のことは気にするな。いいな?」
「そ、そんな……! グレイさん!」
「命令だ!」
グレイの有無を言わさぬ口調に、リリアは涙を浮かべながらも、こくりと頷いた。
「準備はいいな、ミナト。お前のその錆びた剣で、こいつの鎧ごと心臓を貫け」
「……ああ。やってやる」
俺は、錆びた剣を強く握りしめた。
「行くぞ! 今だ!」
グレイの叫びを合図に、リリアが防御障壁を解いた。瞬間、解放された星屑の弾丸が、グレイに殺到する。
だが、彼は突進しなかった。その場に踏みとどまり、大剣を地面に突き立て、自らが盾となったのだ。
「ぐ……おおおおおおおっ!」
全身から血飛沫を上げながらも、グレイは仁王立ちで光の弾丸を受け止め続ける。
その巨体で、騎士の視界と攻撃を、完全に塞いでいた。
「ミナトさん! 聖なる光よ、彼の者に力を! 風の如き俊敏さを、彼の者に!」
リリアの絶叫に近い詠唱が響き、俺の身体に幾重もの光が宿る。
力が、身体の奥底から漲ってくる。
「グレイッ!」
「行けえええええっ!」
俺は、血だるまになりながらも盾となり続けるグレイの横を、一陣の風となって駆け抜けた。
騎士の意識は、まだグレイに集中している。がら空きだ。
俺は、教わった全てを、この一撃に込めた。
腰を落とし、全身をバネのようにしならせ、強化された身体能力の全てを、右腕に、そして錆びた剣の切っ先に乗せる。
「うおおおおおおおっ!」
俺の渾身の一撃は、白銀の騎士の胸甲――心臓の真上――を、正確に捉えた。
ガキンッ! という甲高い音と共に、硬い鎧を貫く感触。
だが、同時に、俺の錆びた剣もまた、その衝撃に耐えきれず、根元から砕け散った。
「……見事だ」
騎士の、金属的な声が響く。
俺が顔を上げると、騎士の胸には、折れた剣の切っ先が深々と突き刺さっていた。
白銀の鎧に、ゆっくりと亀裂が走っていく。
そして、鎧は光の粒子となって崩れ落ち、騎士の身体は、足元から少しずつ、透き通るように消え始めた。
「……資格は、示された」
騎士は、俺を見つめて静かに言った。
「祭壇の『星詠み』を、お前が受け継げ。呼ばれた者よ。だが、忘れるな。その剣は、運命を切り拓く力であると同時に、重い宿命を背負う証でもあることを」
そう言い残すと、騎士は完全に光の中に溶け、消えていった。
後に残されたのは、静寂と、祭壇の上で変わらずに輝き続ける一本の剣だけだった。
「……ぐっ……」
背後で、グレイが膝から崩れ落ちる音がした。




