第14話「焚き火の前で交わされる言葉」
俺たちは、アルラウネがいた広間から一時間ほど引き返し、以前にも利用した小部屋で再び野営することにした。
あの不気味な風を感じてから、グレイはずっと無言で、そのせいで道中の空気は張り詰めていた。
「ミナトさん、もう一度傷を見せて」
部屋に着くなり、リリアが俺の服の袖をまくった。
「いや、もう大丈夫だって。リリアこそ、魔力を使い果たしたんじゃないのか?」
「私のは、休めば回復するから。でも、ミナトさんの傷は……」
彼女は、俺の腕に残る痛々しい傷跡を、悲しそうな瞳でなぞる。
ハイポーションと彼女の魔法で塞がってはいるが、完治には程遠い。
「……悪かった。心配かけて」
「ううん。謝らないで。ミナトさんは、私たちを守るために戦ってくれたんだから」
そのやり取りを、グレイは黙って見ていた。彼は焚き火の前に座り、パチパチと爆ぜる炎をじっと見つめている。
「なあ、グレイ」
俺は、リリアの治療を受けながら、グレイに話しかけた。
「あの風、やっぱり何かの前触れだと思うか?」
「……ああ。あれは、ただの風じゃねえ」
グレイは、視線を炎から動かさずに答えた。
「あれは、意思を持った魔力の流れだ。俺たちを、品定めするような……いやらしい視線を感じた」
「視線……」
ぞくり、と背筋が寒くなる。俺たちはずっと、見られていたのか。
「お前をここに呼んだ『監視者』とやらは、相当な力を持ってる。アルラウネを操り、ダンジョンの構造にまで干渉するとはな」
「じゃあ、俺たちはどうすればいいんだよ。逃げるのか?」
「逃げてどうなる。お前がここにいる限り、奴はどこまでも追ってくるだろうよ」
グレイの言葉に、俺は唇を噛んだ。俺がいるせいで、リリアやグレイまで危険に晒している。
「……俺、一人で行った方がいいのか?」
俺がそう言うと、リリアが「だめだよ!」と強い口調で言った。
「そんなこと、絶対にさせない! 私たちはパーティーでしょ?」
「リリア……」
「フン。ガキが一人で行って、何ができる。一秒でミンチにされて終わりだ」
グレイも、鼻で笑う。
「なんだよ!」
「だがな、ミナト」
グレイは、そこで初めて、俺の方をまっすぐに見た。
「今日の、お前の動きは悪くなかった。無様で、無謀で、見てるこっちが反吐が出るほどだったが……それでも、お前は自分の役割を果たそうとした」
「……」
「アルラウネの蔓を引きつけた判断。あれがなけりゃ、俺もリリアも、もっと消耗していただろうよ」
それは、グレイからの、初めての明確な賞賛だった。
「べ、別に、あんたに褒められたくてやったわけじゃねえよ」
俺は、照れ隠しにそっぽを向く。
「だろうな。だが、事実は事実だ。お前はもう、ただの足手まといじゃねえ」
「……」
「だから、勝手な行動はするな。俺の指示を聞け。そうすりゃ、死なせはせん」
ぶっきらぼうな口調。だが、その言葉には、確かな重みがあった。
「……わかったよ」
俺は、小さく頷いた。
「うん!」
リリアが、嬉しそうに微笑む。
焚き火の炎が、三人の顔を赤く照らしていた。気まずさはまだ残っている。互いの過去も、目的も、まだ何も知らない。
だけど、今、この瞬間。俺たちは確かに、同じ方向を向くパーティーになっていた。




