第12話「決着と不器用な労い」
「ナイスだ、リリア!」
グレイが叫び、開花したアルラウネの本体へと、再び斬りかかった。
花弁の中心にある、巨大な雌しべのような部分が弱点だと判断したのだろう。
「させるか!」
アルラウネは、残った蔓を鞭のようにしならせ、グレイを阻もうとする。
「グレイ! そいつは俺が!」
俺は、まだズキズキと痛む身体に鞭を打ち、蔓の群れに突っ込んでいく。
「ミナトさん!」
「心配すんな! ポーションの効果はまだ切れてねえ!」
俺が再び蔓のターゲットになることで、グレイへの妨害が緩む。
「お前……!」
アルラウネの意識が、完全に俺へと向いた。擬態を破られ、花粉を無効化された怒りが、殺意となって俺に集中する。
「しつこい……!」
本体の根元から、一際太い蔓が槍のように伸び、俺の腹を貫こうと迫る。
「うおっ!」
咄嗟に剣で受け流すが、そのあまりの威力に体ごと吹き飛ばされた。壁に背中を強打し、肺から空気がすべて絞り出される。
「がはっ……!」
「ミナト!」
グレイが、一瞬だけこちらを振り返った。
「見るな! 前に集中しろ!」
俺は、叫んだ。今、あんたがやるべきことは、俺の心配じゃない。
「……チッ!」
グレイは舌打ちすると、もう俺を見なかった。彼は、俺が作ったその一瞬を無駄にはしない。
「おおおおおっ!」
雄叫びと共に、グレイの身体が低く沈み込む。大剣を逆手に持ち替え、渾身の力を込めて、アルラウネの本体に突き立てた。
「ギィイイイイイイイイッ!」
これまでとは比較にならない、鼓膜を破るような絶叫が、広間全体に響き渡った。 大剣が突き刺さった場所から、アルラウネの身体に亀裂が走り、緑色の体液を撒き散らしながら、ゆっくりと崩れていく。
「はぁ……はぁ……終わった、のか……?」
俺はその場にへたり込んだ。ハイポーションの効果が切れ、全身に激痛が走り始める。
「ミナトさん!」
リリアが、泣きそうな顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫!? すごい怪我だよ!」
「へへ……大したこと、ねえよ……」
「嘘つかないで! 今すぐ治療するから!」
リリアが俺の身体に手をかざすと、温かい光が傷を包み込んでいく。痛みが、少しずつ和らいでいった。
「……無茶をしやがる」
いつの間にか、グレイが俺たちのそばに立っていた。
「あんたこそ。俺が時間稼がなきゃ、危なかっただろ」
「フン。お前がいなくても、どうとでもなった」
憎まれ口を叩きながらも、グレイは自分の背嚢から小さな布袋を取り出し、俺に放り投げた。
「……なんだよ、これ」
「傷薬だ。気休めだが、塗っておけ」
「……どうも」
素直じゃない、この男なりの労いなのだろう。俺は、それ以上何も言わずに受け取った。
「しかし、ひどい目に遭ったな。罠だってわかってたのに」
俺がぼやくと、グレイは苦々しげに言った。
「ああ。だが、収穫はあった」
「収穫?」
「こいつを操っていた奴がいる。アルラウネは、本来こんな知能の高い真似はせん。宝箱のポーションも、助けを求める声も、全ては俺たちをここに誘い込むための餌だ」
「じゃあ、俺が最初に聞いた、あの『あなたは、異世界転移をしてみたいですか?』って声も……」
「おそらく、そいつに繋がっているんだろうな」
グレイは、通路のさらに奥、深い闇を見つめていた。その目は、これまで以上に険しく、そして冷たい光を宿していた。




