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信頼できる友達は大事


カランとグラスの中の氷が音を立てる。

ふと時計を見ると、ここで勉強を始めてまだ一時間ほどしか経っていないことに気がついた。


私は今、あかりんの家におじゃまして、夏休みの宿題をしているところだ。


藍ちゃんは真剣に問題集に取り組んでいて、隣のあかりんは教科書をパラパラとめくっている。

ローテーブルをつなげて三人がそれぞれのやりたい宿題に取り組んでいる。


私は英語の課題をこなしていたのだけれど、頭に浮かんでは消える悩み事のせいで、全然勉強に身が入っていなかった。


小さくため息を吐き、あかりんのお母さんが用意してくれたオレンジジュースを飲む。氷に冷やされた心地良い温度のジュースが喉元を通り過ぎていく。



「春姫が溜息なんて珍しいね。」



あかりんに聞かれてしまったようで、ペンを回しながら「何かあった?」と訊ねられる。



「私も気になってた。なんか、ふと見るとぼーっとしてるし。」



なんでもないよ、と誤魔化そうとしたけれど、藍ちゃんまで勉強の手を止めて聞いてくる。

私って、そんなに分かりやすいだろうか。


悩みごとというか、最近ずっと考えてしまうことがある。



「もしかしてさ、秋月くんと何かあった?」


「えっ、何で…?」



考えていたことをあかりんにぴしゃりと言い当てられてびっくりする。



「プール行った時私達と春姫別行動になったじゃん。その後合流した時さ、なんか春姫ちょっと様子変だった気がして。何かあったとすれば、秋月くんかな〜と思って。」


「…その通りです。」



ほらやっぱり〜と、あかりんは自分の推理にうんうんと頷く。



「えっ、そうなの!?あの時何があったの!」



藍ちゃんもペンを置いてお話しする体制になった。


…二人に隠していても仕方ないし、相談に乗ってもらえたら嬉しいな。

そう思って、この前のプールの話も含めて、今悠真について考えていることを二人に打ち明けた。




悠真は私の大切な幼馴染で、気づいた時には何をするのも一緒だった。兄のような、弟のような、家族のような存在"だった"。

私は悠真のことを、優しくて可愛い男の子だと思っていた。いつまでも幼い頃の悠真のままだと。


だけど最近の悠真はどこか違う。

大人びた雰囲気を感じることがあって、その時にドキリとしてしまう。


最初にそれを感じたのはみんなでプールへ行った時だ。初めて見る悠真の表情や、私とは違う身体や力に私の知らない悠真を感じて、胸が高鳴った。


それからはなんでもないような時も…、たとえばついこの前、私の家で悠真と宿題をしていた時のこと。真面目に問題集に向き合う悠真の横顔を見ただけで、なんだかドキドキと落ち着かない気持ちになってしまったのだ。


こんなこと、少し前まではなかったのに。


それに、振り返ってみると、悠真が告白される現場に遭遇した時、抱きしめてとお願いする女の子に悠真が触れるかもしれないと思って、はっきり嫌だと感じたのだ。

それを悠真は嫉妬してくれたと喜んでいたけれど、悠真の言う通り、他の女の子に触る悠真を考えて嫉妬したのだ。



「私、こんな自分の変化にびっくりしちゃって。」



話し終えて二人を見ると、キラキラした目で私を見ていた。



「春姫ったらついに!」


「秋月くんのこと意識しだしたのね!」


「…うん。」



改めて言葉にすると恥ずかしい。熱い頬を誤魔化すように下を向くけれど、二人が喜んでいる様子は伝わってくる。



「よかったよかった〜。これは秋月くん大喜びだね。」


「そうだね。今の話を秋月くんにしてあげるといいよ!」


「大喜びかはわからないけど…。でもね、悩みごとはもう一つあるの。」



私は今二つのことで悩んでいる。

そして、二つも悩んでいることがなんだか悪いことのように感じて、目を伏せる。



「もしかして…夏見くんのこと、とか?」



鋭いあかりんの言葉に頷く。


そう、もう一つの悩みの種は夏見くんだ。



「この前、図書委員会の当番で学校に行った時なんだけどね…。」



息抜きに校舎を散歩していると、美術室にいる夏見くんに偶然出会った。そして、彼が描いた絵を見せてくれるという約束を果たしてくれた。

その被写体が私だったのはびっくりしたけれど。

その場で私を描いてくれて、もらったその絵は私の部屋で大切に保管している。


でもそれだけじゃなくて、私を見つめながら綺麗だって言ったり、私と悠真が付き合ってるか聞いて自分にもチャンスがあるかって聞いてきたり…。明らかに私に好意を寄せている振る舞いをするのだ。


年下なのに余裕があって、こちらの心を翻弄するような言動に、私はまんまと揺さぶられている。



「そうかそうか。夏見くんたら意外とそういうタイプか。」


「これはすごいことになってるね…。」


「…最近は本当にそのことしか考えられなくて、考えるだけでも落ち着かなくなるし…。それに、二人も気になる人がいて悩むなんて、贅沢というか悪いことのように思っちゃうの。」



そう言うと、あかりんと藍ちゃんは顔を見合わせた。



「うーん、私は悪いこととは思わないけどな〜。二人とも素敵だから迷うのは仕方ないと思うし。」


「私もそう思うよ。迷ってるってことはちゃんと二人に向き合ってるってことでしょ?それは良いことだよ。ちゃんと二人のこと考えてあげて、後悔しない選択をしなくちゃね。」


「後悔しない選択…。」



二人の間で揺れてしまうことに少し後ろめたさを感じていた。優柔不断なんじゃないかとか、気が多い女だったのかなとか、そんなことを考えていた。


でも、あかりんと藍ちゃんに話してみて、やっぱり信頼してる人に相談することは大切だと実感する。


私の気持ちが揺れているのは、素敵な二人にちゃんと向き合っているということ。悪いことではないんだと思い直せたことで少しスッキリした。



「悠真さ、私のことどう思ってるんだろうね。」


「ん?」


「私は悠真のこと、その…かっこいいなって思ってきたんだけど、悠真は私のことどう見てるんだろう。」



そう言うと、あかりん達は再び顔を見合わせた。



「どうって、そんなの…。」


「え、秋月くんから何も言われたことないの?」



困ったような表情の二人。藍ちゃんの言葉に頷くと、あかりんは天を仰ぎ、藍ちゃんは頭を抱えた。



「…もう余裕だと思ってるのか、大切すぎて手を出せないでいるのか…。」


「でも何も言わなきゃ伝わらないし、そのうち取られるぞ〜…。」



何かを呟いている二人に聞き返すと、「…いや、なんでもない。」と返される。



「次に秋月くんに会った時に聞いてみる…のはハードル高いかな?とりあえず、今の春姫の目で、秋月くんのことをよく見てみるといいよ。自分のことをどう見てるのかなって。」



たしかに、どう思っているのかストレートに聞くのは気が引けるけど、とりあえず悠真のことをよく見てることは有用かもしれない。



「もうすぐ花火大会あるでしょ?私、悠真と行く約束してるの。もっとよく悠真のこと見てみるね。」



私の言葉に二人は頷いた。頑張ってきなさいって。


あんまり見てるとドキドキしそうだけど。

悠真は、私と一緒にいてドキドキすることがあるんだろうか…。





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