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みんなとプールで



夏休みに入った一週間後、悠真のサッカーの試合があった。応援に行きたかったけど、遠方だったのと図書委員会の当番が被ったので行けなかった。


その後、悠真は悠真のお母さんと一緒に、おばあちゃんの家に帰省したので会えない期間があった。


私はその間に宿題をしつつ、あかりん達と水着を買いに出かけた。



「どうしたらいいんだろう…本当に悩む。」



並べられた水着はどれもかわいいけれど、人前で着るんだと思うとやっぱりすごく考える。だって、ほぼ下着みたいなものじゃない。

悩みながらふと見ると、あかりんはもう既に一着をカゴに入れていた。



「あかりんもう決めたの?」


「うん、ワンピースタイプにした。」



広げて見せてくれたのは、上半身はスッキリ、下半身はふわっとした可愛らしいワンピースの水着だ。


それを見て、藍ちゃんは「え!」と驚く。



「あかりん話と違くない?若いうちに水着をって言うから、てっきりビキニかと思ったんだけど。」


「私はビキニは似合わないんだな。藍ちゃんはスタイル良いから似合うと思うよ。」



私服を選ぶ時ですら自分に似合うものとそうでないものがある。せっかくなら、より似合うものを着たいよね。



「じゃあ春姫は私とビキニにしようよ。お腹は出るけど、上をフレアとかにすれば隠せる部分は多くなるよ。」


「うーん、そうだね。あんまり露出は良くないって言われてるし…。」


「言われてるって、親に?」


「ううん、悠真に。」



水着を選びながら答えたのだけれど、シーンとしてしまった。ん?と思って二人を見ると、二人とも微妙な顔をしている。



「…なんか、秋月くんてパパみたいなこと言うね。」


「そうかな?」



みんなでプールに行くと決まった後、悠真から、夏は浮かれる人もいて危ないから露出の少ない水着がいいと思うよと言われた。

その意見も参考にしようと思ってはいたけれど、よく考えてみればたしかに悠真は保護者みたいだ。



「ふ〜ん。秋月くんも露出が嫌いなわけないくせにね。…じゃあこれはどう?露出少なめ。」



あかりんが水着を数着見比べて、そのうちの一着を手渡してくれた。

手に取って見ると、ホルターネックのワンピースタイプでかわいい。露出少なめでこれなら私も着られそうだ。

これにしようかなと思っていたが、あることに気付いて固まる。え、だってこれ…。



「いいじゃんそれ!パッと見、保護者の許可も出るよ!」


「いや、でも…。」


「もっと胸出るやつでもいいんだよ〜?でも今持ってる物の方が、覚悟決めやすいんじゃない?」



藍ちゃんもあかりんも、それにしなよと勧めてくる。

とりあえず試着したところも見てもらったんだけど、店員さんも巻き込んで褒めてくれたから、勇気を出して買うことにした。








そうして迎えたプール当日。


着替えに時間を取られないように、予め水着を着る。その上から緩いワンピースを着れば、中に着てるもので膨らんだ見た目にならないし、着替える時もさっと脱ぐだけなので簡単だ。

プールに入るから、髪の毛は緩くシニヨンにしておく。


身支度を整えて時計を見る。ちょうど良い時間だ。


プール施設があるところまで、私は電車で移動する。玄関を出ると悠真が待っていてくれて、一緒に出かけた。



「なんだか久しぶりな気がするね。」


「そうだね。俺が練習ばっかりで大会の後はすぐばあちゃんの家行っちゃったし。」



久しぶりに会ったけど、相変わらず悠真はニコニコ笑っている。穏やかな声も、聞いていて安心する。



「悠真けっこう日焼けしたんじゃない?」



半袖シャツからのぞく腕は、前より日焼けした気がする。夏って感じだな〜と思って、その腕をペタペタ触っていると、咳払いされた。



「春姫、むやみに他人の体を触ってはいけません。」


「はい、ごめんなさい。」



勝手に触った私が悪いけど、藍ちゃん達が言っていたように悠真が保護者に見えてくすくす笑ってしまう。


何笑ってるの?って聞かれたけど、なんでもないと誤魔化した。



「そういえば、悠真みんなで夏祭り行きたがってたよね。今回はプールで残念だったね。」


「行きたがってたというか、あれは…。まあそういうことでもいいけど…。」



…?なんだか歯切れの悪い言い方だ。

でも、大切な幼馴染の悠真のしたいことなら、私が叶えてあげよう。



「だからさ、夏祭りは私と行こう?もちろん、予定が合えばだけど。」


「え、本当に?」



私の提案に一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔に戻った。



「実は俺も春姫のこと誘おうと思ってたんだ。先に言わせちゃったけど、一緒に行ってくれたら嬉しい。」


「うん、もちろんいいよ。」



私も誘ってるんだから断るわけない。それでも、ちゃんと誘い直してくれるところは律儀だ。


OKすると、穏やかな笑顔を浮かべて嬉しそうに笑った。悠真が嬉しそうだと私も嬉しい。


これからの楽しみを一つ約束して、私達は電車に乗った。







プール施設に到着すると、徐々にみんな集まってきた。

藍ちゃんとあかりんを手を振って迎える。すると、藍ちゃんが私の腕を引いて、コソコソ声で聞いてきた。



「ちゃんとあの水着持ってきた?」


「もちろん。もう服の下に着てるよ。覚悟決めてきたので大丈夫。」



私の返事に満足してふふふと笑う。あかりんも後ろで満足げに頷いている。

三人で話していると、やがてみんな揃ったみたいだ。



「みんな揃ったな!じゃあ着替えて中で合流で!」



宮田くんの声掛けで建物のに入り、男女で分かれて更衣室へ向かった。


着てきた私服を脱いで、荷物と一緒にロッカーにしまう。備え付けの鏡の前が空いたので、全身を映して確認する。お店で見た時はちょっとびっくりしたけど、でも慣れてくればデザインとしてとても可愛いと思う。


大丈夫。変なところ、ないよね。



「春姫も着替え終わった?いいね、やっぱり可愛いじゃん!」



藍ちゃんは結局シンプルなビキニを選んだ。スタイルも良いしスポーツをしてるから身体も引き締まっててとても似合ってる。



「見せてよ春姫〜。おお、これはみんな釘付けだね。私ってばいい仕事した〜。」



あかりんのワンピーススタイルも似合ってる。癒し系の見た目のあかりんにぴったりで可愛らしい。


では行くぞー!と言うあかりんに、おー!と藍ちゃんと返事をして更衣室を出た。







「おお!みんな可愛い!」


「可愛いー!俺今日ここに来て良かった!」



更衣室を出てプールの方へ行くと、近くの休憩スペースにみんな座って待っていた。やっぱり男の子は身支度が早い。


「お待たせしました〜。」と三人で近付くと、顔を上げたみんなは笑顔で褒めてくれた。


女の子なら誰でも、可愛いと言われるのは嬉しいものだ。藍ちゃん、あかりんと顔を見合わせて笑う。


悠真と目があったので、近付いて話しかける。



「見て、可愛いでしょ。あかりんが選んでくれたんだよ。」



可愛いデザインを見てほしくて、悠真の前でくるくる回った。すると、がしっ!と両肩を掴まれた。



「ちょっと待って!これ…。三原さん!?」



動揺した声であかりんを呼ぶ。呼ばれたあかりんは「はいはい。」と近付いてきた。



「可愛いでしょこれ。こういうデザインも最近流行っててさぁ。春姫背中も綺麗だから似合うのよ。」



私が着ているのはモノキニだ。前から見るとワンピースだけど、後ろはビキニみたいに背中と腰が空いている。



「秋月くんにお喜びいただけるかと思いまして。」



あかりんお得意のドヤ顔を披露した。

「うう…っ。」と小さく唸る悠真。なんだか反応がイマイチだ。…もしかして。



「悠真こういうのダメだった?可愛くない?」


「そんなことない。…すごくかわいい。」



不安になって聞くと、小さな声だけど褒めてくれた。その耳は少し赤い。悠真ってば、普段見慣れない格好だから照れてるんだな。


悠真にもお墨付きをもらって安心した私は、藍ちゃん、あかりんと一緒に施設内マップを見てどこに行くか話し合った。



「じゃあ最初どこ行こうか?」


「やっぱりまずはウォータースライダー?」


「人気だから早く並んでおかないと!」



伊藤くん、植田くんも混ざって話し合い、最初はこのプール名物のウォータースライダーへ行くことにした。





……………


ポンポンと肩を軽く叩かれる。



「悠真大丈夫か?」


「…大丈夫。さっきも言ったけど、あんまり春姫のこと見るなよ。」


「うーん、見るなは無理があるけど、できるだけ心がけるよ。でも、ビキニより露出は少ないしまだ安心じゃね?」


「そういう問題じゃない…。」



更衣室から出てきた春姫はワンピースタイプの水着を着ていて、露出が少ないデザインに安心した。まあそれでも、普段よりは腕も脚も出ているけど。


ニコニコしながら近付いてきて、新しい水着を嬉しそうに見せてくるから可愛いなと思ったのだが…。

前側とは対照的に、後ろ側が大胆に開けられていることにびっくりした。白い肌が晒されて、細い腰が強調されるようなデザインに、動揺しないわけがない。


正直に言って目に毒だ。

俺だって普段は見られない春姫の姿に興味がないわけじゃないけど、あんまり見ていては落ち着かない気持ちになってしまう。


そんな俺をよそに、まずはウォータースライダーへ向かうと決まったようだ。伊藤と植田は浮かれた笑みを浮かべながら春姫達に着いていく。


伊藤と植田は気のいい奴らで、俺の春姫への気持ちは知っている。二人が敵じゃないとは分かっているけれど、春姫の水着姿を見られるのはやっぱり嫌だった。親友の宮田にだって見られるのは嫌なのに。プールに決まってしまった時点でそんなことは言えなくなってしまったけど。


春姫の水着姿を他の人達に見られたくないという思いはあるけれど、それは自分勝手な思いだということは理解している。


どうしようもない葛藤を抱えながら、宮田と一緒にみんなの後に続いた。




……………



夏休みなので人はまあまあ多い。子連れ客も多くて、小さい子が両親に手を引かれてよちよち歩いている姿は可愛い。


ウォータースライダーは迫力と爽快感があって楽しかった。並ぶ時間は長かったけれど、それに見合う楽しさだと思う。


並んでいる間はみんなでおしゃべりしていた。伊藤くんと植田くんは今まで全然話したことがなかったけど、明るくて楽しい男の子だ。防水ケースに入れてきたスマホでみんなで写真を撮ったりもして、楽しい時間だった。


危ないから、水着姿はSNSにアップしないようにという悠真は、やっぱり保護者みたいにしっかりしている。



ひとしきり色んなプールで遊んだ後、もう一度ウォータースライダーに乗りたい人と、流れるプールに入りたい人とで別れた。


ウォータースライダーには伊藤くん、植田くん、藍ちゃんが行った。流れるプールには宮田くん、悠真、あかりん、私で向かった。


私とあかりんは、それぞれレンタルした浮き輪につかまってふよふよ浮かぶ。離れすぎないように手を繋いでいる。悠真達はその後ろに着いてくるかたちだ。


快適に流されていたら、バチャバチャと水飛沫を上げて、小学生が走ったり泳いだりして来ていることに気がつく。

ぶつからないように避けようとしたら、あかりんと手が離れて、流れが早い方に入ってしまった。

このプールは外側はゆっくりだけど、内側は流れが速くなっている。



「うわっ!」



あかりんはバランスを崩したが、近くにいた宮田くんに支えられて大丈夫だったみたいだ。



「春姫!」



悠真が手を伸ばしてくれたが、私達の間をまた小学生が泳いで行って手を掴めなかった。



「大丈夫!このまま一周してくるから、合流したら捕まえて!」



こちらの方が流れが早いから、ぐるっと回ってくる頃には合流するだろうと思い、そう言った。


外側と比べて、内側はあまり人が多くない。流れが早いから、子連れのお客さんはあまり来ないのだろう。



「わっ!速い速い…。」



スピードが思ったより速くてちょっと怖い。

早く合流できないかな…と考えていたら、流れが止まった。

あれ?と思ったら、プールの流れが止まったのではなくて、私の掴まっている浮き輪が止められていた。



「大丈夫?心配で止めちゃった。」


「怖そうな顔してたね〜。」



私の浮き輪を掴んでいたのは、知らない男の人達だ。雰囲気からすると大学生だろうか。プールの内側には陸地が作られていて、そこに腰掛けていたみたいだ。



「あ…、大丈夫です。」



愛想笑いを浮かべてそっと離れようとするが、浮き輪が掴まれていて動けない。



「かわいーね。高校生?友達と来てんの?」


「え!本当だ、かわいい!」


「かわいい水着着てるね〜。」



いろいろ話されていろいろ聞かれるけど、どうしたいいのか分からない。そんな私を見て「怖がらせるなよ、かわいそうだろ〜。」と笑っているけれど、離してくれる様子はない。



「あの、あっちに友達いて…。離してもらっていいですか…?」


「もう少し話そうよー。あ、友達女の子?その子も呼ぶ?」



全然話聞いてくれない。

どうしよう…怖い…。



「手、離してください。」



その時、すぐそばで聞こえた言葉にハッと顔を上げる。

そこには悠真がいて、内側の壁に掴まりながら私達の間に入った。


いつもニコニコの悠真とは違う表情。男の人達を睨むように見ていて、こんな表情もするんだと驚く。



「…ああ、友達って男だったのかよ。」



途端にテンションが下がる男の人達。

すると、さっきまでが嘘みたいにあっさり浮き輪から手を離されて、そこから逃げることができた。



「遅くなってごめん、怖かったよね。」



悠真が浮き輪を掴んで遅い流れの方へ戻してくれた。ゆっくり流れながら、私を心配する言葉をかけてくれる。その顔はいつもの優しい悠真だった。



「ありがとう、来てくれて良かった。…悠真、あんなに怖い顔することあるんだね。それに浮き輪ごと私を引っ張って来れるくらい力持ちだし。」


「怖い顔だったかな?ちょっと余裕なくてさ…。春姫軽いからちょっと引っ張るくらいなんでもないよ。」



力があることについては謙遜しているけれど、水の流れがある中でそれに対抗して動くのは力がないと無理だと思う。


よく見れば、悠真の身体にはちゃんと筋肉がついていて、私の身体とは大違いだ。


昔はそんなに変わらなかったのになぁと思う。


もしかしたら私は、悠真のイメージが小さい頃のままで止まっているのかもしれない。

男性らしい身体に成長した悠真に気が付いて、ちょっとドキドキしてしまう。



「悠真って、男の子だったんだね。」


「え?今まで何だと思ってたの。」



思ったことを言えば、悠真は一瞬ぽかんとした後にクスクス笑い出した。



「でも良かった。これで、俺が男だって思ってもらえたなら。」



そう言って微笑む悠真は、水に濡れているのもあってか、なんだかすごく大人っぽく見える。


それを見ていたら頬が熱くなってしまって、誤魔化すように俯いた。






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