夏に向けての作戦会議
「……本日の終業式を迎えることができました。明日から夏休みに入りますが、有意義なものとすることができるようにそれぞれが考えて過ごしてください。また、健康には十分気をつけてください。夏休みといえばいろいろなイベントやレジャーが……。」
校長先生の挨拶が始まってもうどれくらいになるだろうか。
終わりそうで終わらないところがもどかしい。
長々と前期の思い出とかみなさんの頑張りを語って、やっと夏休みの注意事項に入った。これまでの経験上、その後は夏休み明けについての話が残っている。こういうお話は頑張って考えているものなのかもしれないが、いよいよ夏休みだということに浮かれて聞いていない人がほとんどだと思う。
今日、体育館に全校生徒が集められて終業式が執り行われている。
私の高校は、生徒が体育館に集まる時は大型扇風機が回されるものの、運ばれてくる涼しさは気持ち程度だ。
今は座って聴くよう指示されているので、立ちっぱなしよりはまだ楽だ。だけど、多くの人が集まっているので熱気が籠るのは辛い。
私もそろそろ話を聞く気が薄れて、ちょっと周囲を見渡してみた。
隠れて携帯をいじっていたり、友達とコソコソ話をしていたり、かくんかくんと首を揺らしながら寝ている人がいたり…。やっぱりみんな、話を聞いていない様子だ。
ぼーっと前の方を見ていると、悠太が隣の男の子と話しているのが見えた。
大会が近いので、悠真は毎日練習に打ち込んでいる。そういえば最近一緒に登下校していないかもと気が付く。メッセージアプリで連絡を取り合ったりはしてるんだけど。
そのまま見ていると、悠真が私に気が付いた。
ニコリと笑って手を振ってくれるから、私も手を振り返す。
そうしたら、悠真の周りの何人かが振り向いて、なぜかその人達まで私に手を振ってきたから、驚いてビクッとしてしまう。
すぐに悠真がその人達をベシベシ叩いていたから、わたしは揶揄われたんだと思う。ちょっと恥ずかしくなって俯く。
「なに?もう終わった?」
私がビクッと反応したことで、私に寄りかかって寝ていたあかりんが起きてしまった。
「静かに、あかりん。まだ話してる途中だよ。」
寝ぼけているあかりんにそう言うと、「まだ寝られるってことだ。」と再び寝る体勢に入った。あかりんのこの豪胆さは一周回ってすごいと思う。
長かった終業式も終わり、教室に戻るとみんなのテンションは最高潮に上がっている。
だってもう夏休みで、自由なのだ。
もちろん宿題はあるけれど、それは今考えることではない。
私もみんなの雰囲気につられてワクワクしてきた。
帰る準備をしていると、スマホにメッセージアプリの通知が来たことに気付いた。見ると、それは悠真からだった。
『今日ちょっと時間ある?できれば、小川さんと三原さんも一緒に。』
珍しい内容に、なんだろうと首を傾げる。
藍ちゃんとあかりんに声をかけると、二人とも大丈夫だと言うので、了承のスタンプを送った。
そして私達は、ファミレスに来た。
「それでは、夏休みにみんなでやりたいことを挙げていきたいと思います!」
宮田くんの言葉にみんな、イエーイ!と声を上げる。ドリンクバーでみんな好みのジュースを作って着席している。
この場には、女の子は藍ちゃん、あかりん、私がいて、男の子は悠真、宮田くん、伊藤くん、植田くんがいる。
伊藤くんと植田くんは悠真達と同じ三組の男の子だ。
…そういえばこの二人、終業式で私に手を振ってきた人達だ。あれは私を揶揄ったんじゃなくて、挨拶のつもりだったのかもしれない。
「はいはい!海!」
「俺はプール!」
伊藤くんと植田くんが元気よく挙手する。
やっぱり海は夏って感じがして良いかもしれない。海の家の焼きとうもろこしとかも食べたい。
だけどプールも捨てがたい。流れるプールもウォータースライダーも、プールでしか楽しめないものだ。
「だめ、夏祭りとかにしよう。」
しかし、二人の意見をバッサリと切り捨てたのは悠真だ。それを聞いて、二人はギッと悠真を睨んだが、対する悠真は涼しい顔をしてドリンクを飲んでいる。
「私も夏祭り良いと思うな。絶対楽しいじゃん。それにほら、水辺に行ったら水着着なきゃいけないよ?」
藍ちゃんが私とあかりんに向けて言う。
たしかに、水着着なきゃいけないのはハードル高いかも。その点、夏祭りは私服でいいし、いろんなお店もあるからみんなで行くの楽しそう。
賛同意見に悠真は嬉しそうだけど、伊藤くんと植田くんはものすごくがっかりしてる。
…そんなに行きたいの?
しかし、一石を投じたのはあかりんだった。
「何言ってるの藍ちゃん。水着なんて今着なくてどうするの。今が一番若いんだから、今着れないと今後一生着れないぞ。」
「うう、…それは、たしかにそうかも。」
あかりんの言葉に、藍ちゃんは迷いながらも頷く。私も、あかりんの言葉は胸に刺さった。若い今しか、チャンスはないかも。
「私もあかりんの言葉で目が覚めたよ。今着ないでどうするのって話だよね。海もプールも良いと思う。」
「え、春姫本気なの?もうちょっと考えた方がいいよ。」
私もあかりんの意見に賛同すると、慌てて悠真に止められる。伊藤くんと植田くんが「余計なこと言うな!」と脇から言うが、意に介していない。
悠真、そんなに夏祭り行きたいんだ。
でもさ、悠真。
「夏祭りもいいけど、でも最近、大雨で中止になりがちでしょ?それならある程度日程調整できるものの方が良いと思うんだよね。」
「おー!たしかに!」
「そうそう!桜井さん良いこと言うわ!」
「……。」
伊藤くんも植田くんも賛同してくれた。藍ちゃんもあかりんも、うんうんと頷いている。
悠真は微妙な顔をしているが何も言わない。
そんな悠真を見て宮田くんは苦笑いしつつ話を進める。
「はい、じゃあ海かプールかということで!じゃあどっちが良いか決めて、あとみんなの空いてる日も合わせておくか!」
その後、日焼けするので室内プールがいいと女の子側から意見が上がり、近くの町のプール施設に行くことになった。日付は、悠真達の大会が一段落する二週間後に決まった。
これから連絡を取る用として、メッセージアプリのチャットグループを作るためにみんなで連絡先を交換した。
「桜井さんのアイコンかわいいー!このケーキは?桜井さんが作ったの?」
「そう!この前の休みに悠真と焼いたケーキだよ。」
「…へー。」
今の私のアイコンはフルーツを乗せたホールケーキだ。この前の休みに悠真と悠真のお母さんが遊びに来て、親達同士で話している間に二人で作ったのだ。なかなか可愛くできたのでアイコンにしてみた。
「その前は秋月くんに取ってもらったUFOキャッチャーのぬいぐるみだったよね。」
「そのまた前は秋月くんと一緒に飲んだカフェのドリンクだったね〜。」
「……へー。」
藍ちゃんもあかりんもよく覚えてるな。
でも、その二つもお気に入りだった。
「…悠真お前さ、そんなところまで手回してるの?」
「俺もさすがにびっくりだわ。」
「…なんのことだかさっぱり。」
伊藤くん、宮田くんからの言葉へ無愛想に返す悠真。
なんだか珍しく拗ねてるみたいだ。
プールに決まったのがそんなに嫌だったのかなと首を傾げた。