表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

今度、機会があったら



「藍ちゃん、春姫〜、私プールも行きたいし、花火もしたいなぁ。夏休みってあっという間に終わっちゃうからさ、予定いっぱい詰めないとね。」



普段は緩く過ごすのが良いと言うのに、今日は珍しくすごく活動的なことを言うあかりん。


梅雨は明けて、夏休みはもう少し。

だけどその前に、学生達には試練がある。



「あかりん、現実逃避してないで一問でも解きなさい。」



藍ちゃんにビシッと言われて、頬杖をついてぽやんとしていたあかりんは崩れ落ちた。

ちょっと可哀想だけど、あかりん面白い。


藍ちゃんは部活もだけど勉強も真面目にやるタイプで、文武両道という言葉が似合う。

あかりんは部活も勉強も緩くやるスタンスで、本人曰くほどほどで良いのだそうだ。


私もどちらかというとあかりん寄りだけど、勉強はできることに越したことはないと思っている。


まだちょっと早い話だけど、勉強ができれば大学の選択肢が広がるし、やりたいことを叶えるための一番単純で大切な手段だと思うのだ。

だから、少しでも良い点を取れるように頑張りたい。



私は今日は図書委員会の当番で、係りの仕事をしつつ勉強している。あかりんも藍ちゃんも、静かな図書室に勉強しにきた。


聞こえるのは、たまに友達同士で話し合う声と、換気のために少し開けられた窓の外から聞こえる音だけだ。窓からは、外で活動する運動部の声がかすかに聞こえてくる。


悠真も夏には大会が控えているので、勉強もしないといけないが部活も頑張らなければいけない。二つのことを同時に頑張っているのに、成績を落とさないのはすごいと思う。


体を伸ばしがてら図書室を見渡せば、やっぱりテスト前はいつもより人が多い。家に帰ったり、一人でいると怠けちゃうけど、こういう所に来れば自然と勉強を続けられるという人も多いのだ。


周りのみんなを見て、私も頑張らなきゃと次の問題に取り組んだ。






しばらくして、受付カウンターの前に人が立ったことに気がついた。

仕事、仕事…と思いそちらに顔を向けると、なんと、そこにいたのは夏見くんだった。



「な、つみくん…。」



驚いて大きな声を出しそうだったが、かろうじて抑えた。

夏見くんはそんな私をチラリと見ると、借りたい本を手渡した。

慌てて受け取って、日本史と世界史の資料集を確認し図書カードに記入する。


そうだ、お礼言わなきゃと思って、思い切って話しかけた。



「今更だけど、マラソン大会の時はありがとうね。助かりました。」


「いや、別に…。大したことしてませんから。」



相変わらずぶっきらぼうだ。でも、ちょっと動揺したように視線をずらしたことに気付いて、可愛いとこあるなと思う。



「カード書けたよ。勉強用かな?頑張ってね。」


「これは息抜き用です。」



本を手渡しながら頑張ってと言うと、息抜き用だと言われる。その意味がよく理解できず首を傾げた。



「こういう資料集って文化物の写真が多いから、息抜きに眺めてるんです。」


「へえ、なるほどね。さすが美術部だ…。」



仏像とか、彫刻とか、そういう文化的なものを見て息抜きしてるんだ。私には無い発想で驚かされる。


テスト前じゃなかったら、本物を見に美術館に行くのかな。芸術的な作品を見て、自分の作品のインスピレーションにしてるのかな…。



「夏見くんの絵、見てみたいな…。」



心の声がポロッと口から出てしまって、慌てて口に手をあてる。嫌な気持ちにさせてしまったらどうしようと焦る。


おそるおそる夏見くんを見ると、驚いたように私を見ていた。

しかし目が合うと、逸らされる。



「…今度、機会があったら。」


「えっ、本当に?」



社交辞令かもしれないけど、良い返事をもらえるなんて思っていなかった。

聞き返すと、私の言葉に小さくコクリと頷いて、そのまま図書室を出て行った。





偶然性出会えたことと、絵を見たいと言っても拒絶されなかったことが嬉しくて、そのままぼーっとしていると、腕をくいっと引かれた。



「春姫!ちょっとお話ししよ!」



藍ちゃんが私の腕を引きながら、小声でそう言った。後ろのあかりんもニマニマしている。



仕事があるので図書室から離れられないから、椅子に座りヒソヒソ声で話す。



「あれが夏見くんね!改めて見たら結構かっこいいじゃない!」



さっきまで真面目に問題を解いていたのが嘘のように、いつもの恋バナ好きな藍ちゃんに戻っている。



「びっくりしたけど会えて良かった。改めてお礼も言えたよ。」


「いいねいいね!他には何か話した?」


「あんまり話せなかったけど、…夏見くんの絵を今度機会があったら見せてくれるって言ってた。」


「なにそれ、素敵!」



小声だけど興奮を抑えきれない藍ちゃんは、手を胸元で組んでキラキラした目をしている。一緒に恋愛ドラマを見た時もこんな表情をしていた。



「え、それすごいじゃん。」



黙って私達の話を聞いていたあかりんがそう呟いた。



「夏見くんツンツンしててなかなか心開かないのに。私なんか部活の先輩なのに、春姫に先越されたぞ。」



「ショックー。」と言って机にだらんと倒れる。

でも、すぐにふわぁとあくびをして、口で言うほどショックを受けているようには見えない。



あかりんの話からすると、少しは私に心を開いてくれているみたいで嬉しい。彼の見た目も相まって、懐かない黒猫が少し歩み寄ってくれた、みたいな。



今度、機会があったら。


夏見くんの絵を見せてもらえるのが楽しみだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ