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嫉妬



6月に入り、梅雨が到来した。

雨は多いし、空気はジメジメしてるし、憂鬱になる季節だ。



「ベタベタ、ジメジメだよ〜。」



昼休みにご飯を食べた後、あかりんは机に突っ伏して怠そうにしている。



「本当だね。これ乗り切らないと夏にならないの辛いよね。」



私も梅雨は苦手だ。早く開けて欲しいと毎年考えている。梅雨前に一度すごく暑くなるのに、梅雨に入ると冷える日があるのも苦手だ。



「こんなジメジメを吹っ飛ばすようなこと、何かないかな。ね、春姫。」



藍ちゃんはそう言うと私を見た。

その目はなぜか楽しそうで、藍ちゃんの意図を図りかねて首を傾げる。



「えー、もう鈍いなぁ。あの後輩くんとはその後何かなかったの?」


「後輩くんて…夏見くんのこと?別に何も…というか、そもそもあれから会ってないし。」



一年生の教室に行く用事もないし、玄関や廊下で偶然すれ違うこともなかった。もし会ったら改めてお礼を言おうと思っているんだけど。



「私はたまにしか行かないけど、この前部室行った時にはいたよ。夏見くんかっこいいからさ、夏見くん来た日は部員も多いんだ。」


「それは夏見くん目当てってこと?」


「そう。こっそり夏見くんのこと描いてる子もいる。」



それはすごい。

本人に許可を取らないのはどうなんだろうと思うけど、絵にしたくなるような良い被写体なんだ。それに、あかりん曰く自由人が多い美術部を活性化させている。



「そんなこと言われると、もう一回夏見くん見てみたいかも。私あの時、ちゃんと見なかったんだ。」



藍ちゃんはすぐに私のところへ駆け寄ってきてくれたから、さっさと帰ってしまった夏見くんのことをよく見ていなかったらしい。



「じゃあ今度みんなで会いに行ってみる?」


「いや、そういうこと嫌いなタイプっぽいしな…。」



あかりんが提案するが、藍ちゃんは難色を示す。「でも見たい気持ちはある…。」と葛藤している。いくら自分がこうしたいと思っても、相手の気持ちを思いやれる藍ちゃんが私は好きだ。





「桜井さん、ちょっといい?」



不意に名前を呼ばれてそちらを見ると、同じクラスの男の子が私達の近くに立っていた。



「どうしたの?」


「いや、ちょっと先輩が呼んでて。」



居心地悪そうに頭を掻きながらそう話す。

なんだろうこの感じ。もしかして…。



「…わかった。」



あかりん達を見ると、無言で手を振られた。いってらっしゃいということだ。






男の子についていくと、人気のない廊下の突き当たりに来た。そこには、先輩だという人が一人立っている。私の知らない人だ。


じゃあ、と言ってクラスメイトの男の子は戻って行った。



二人きりになり、少し沈黙が落ちたが、やがて先輩が口を開いた。



「呼び出してごめん。…俺、ずっと桜井さんのこと良いなって思ってて、それで…。よければ、俺と…

「「付き合ってください!」」


「え?」



声が二重になって聞こえた。

そう聞こえたのは目の前の先輩も同じらしく、困惑したように一度周りを見渡した。だけどすぐにハッとして、私に視線を戻した。私の返事を待っている。



「…ごめんなさい。付き合えません。」



こういうのはハッキリ断った方が良いのは知っている。なんだか申し訳ない気持ちになるけど、それで曖昧に返事をするとかえって勘違いさせてしまうことがあると学んだ。



「そっか、…わかった。」


「なんでですか!私のどこがダメですか!」



俯きながら呟かれた先輩の言葉を遮るように、女の子の大きな声が響いた。

それは間違いなく、私達の隣の教室から聞こえる。そこは、空き教室だったはずだ。



「君のどこかがだめなんじゃなくて、そもそも俺は今誰とも付き合う気はないんだよ。」



続けて聞こえてきた声は、なんと悠真の声だ。


こんな偶然がある?と驚く。空き教室の中と外で、同じ時間に告白が行われるなんて。それも、相手は幼馴染だ。



「…そっと離れるか。」


「そうですね…。」



先輩もこんな事態に拍子抜けしたようで、小声になって話す。告白を断ったばかりで気まずいけど、空気を読んで二人で静かに移動しようとした。


しかし、続けて聞こえてきた言葉に耳を疑った。



「じゃあ、私のこと抱きしめてください。私、それで諦めますから。」



…え?


何、言ってるの?

抱きしめてくれたら諦めるなんて、そんな発言…。

そんなの、自分のことしか考えていないじゃない。


信じられない言葉に呆然としていると、「ねえ、先輩…。」と、甘い声が聞こえてきた。



…っ!



「だめっ!」



気が付いたら、私は教室の扉を開けて大きな声をあげていた。


中の二人が驚いた顔で私を見る。

そのうちの男の子の方は、やっぱり悠真だった。


女の子は私を見ると、途端に顔を真っ赤にした。



「なっ…!盗み聞きしてたんですか!?意地悪!」



これには私もムッとする。

偶然聞こえただけで盗み聞きなんてしていない。

それに、あなたが耳を疑うようなことを言うから飛び込んでしまったというのに。



「盗み聞きなんてしてない、廊下まで聞こえただけ。良くない内容だったから、思わず入ってしまったの。」



感情を荒立てないように、事実だけを言う。私も思うことはあるけれど、感情のまま話しては会話にならなくなる。


女の子は泣きそうに顔を歪めて、そのまま私のところに走ってきた。

手が振り上げられて、まずいと思ったけど避けるのは間に合わない。



「どいてよ!!」



大きな声と一緒に振り下ろされる手と、その痛みに覚悟したけれど、痛みが襲うことはなかった。



「それは、やってはいけないことだよ。」



女の子の腕を、悠真が後ろから掴んで止めていた。



「あっ…。」



女の子は顔を真っ青にする。

悠真は無表情で女の子を見ていて、そこに笑顔はない。いつも笑顔の人の真顔はよけい怖く見えるだろう。


悠真が手を離すと、女の子の手は力無く下げられた。



「俺もそれはだめだと思う。自分の立場も、相手からの印象も悪くなる」


「え、誰…?」



そこに、さっき私に告白してきた先輩加勢した。

女の子にとっては知らない人だから、当然困惑している。



「俺も今ここで振られたけどさ、誰かにあたろうなんて思わない。すっぱり諦めないと。」


「うう…。」



先輩の話を聞いたからか、少し時間を置いたからか…、女の子はだいぶ落ち着いたようだ。

まだ顔は赤いけど、ちらりと私を見る。



「ごめんなさい。」



目線は一瞬しか合わなかったけど、小さな声で謝った。そして、こちらが何か返す暇もなく、小走りで廊下をかけて行ってしまった。


その様子を見た先輩も、「じゃあ…。」と一瞬私を見て、向こうへ歩いて行った。





「春姫もすぐ近くにいたんだね。すごい偶然。」


「うん、私もこんな偶然あるんだってびっくりしたよ。」



悠真に声をかけられて振り向くと、さっきの無表情が嘘のようにいつものニコニコ笑顔に戻っている。


そのことに少し安心したが、それよりも、私は気になることがある。



「悠真さ、今日みたいに女の子から…、その、抱きしめてとか言われて、迫られることよくあるの?」


「うーん、そんなにはないよ。」



"そんなにはない"ってことは、少しはあるんだ。

ちょっと嫌な気持ちになる。



「その時って悠真どうしてるの?今日も私が入らなかったら…抱きしめてたの?」


「まさか。女の子に触ることないよ、俺。きっぱり断るし、変に期待させるようなこともしない。」


「…そっか。」



それを聞いて安心した。


悠真は優しいから、相手を可哀想だと思って、諦めるからなんて言われてその通りにしたらどうしようと思った。



「自分でも断れるけど、俺は春姫が飛び出してきてくれて嬉しかったよ。」


「なんで?味方が増えたから?」



今の悠真はなんだか機嫌が良いように見える。



「春姫が、嫉妬してくれたから。」


「しっと…?」




これって、嫉妬なの?


思わず教室の扉を開けて入ったのは、女の子の言動が許せないと思ったから。あまりにも自分勝手で相手のことを考えていないと思ったから。


それと、…もしかしたら悠真が、言うことを聞いてしまうんじゃないかと思ったから。


さっきの話でそれはないと分かったけれども、悠真が知らない女の子を抱きしめているところを想像して、胸がギュッとなった。



「私、嫉妬したんだ…。」



考えを整理するようにポツリと呟くと、悠真が小さく吹き出した。



「春姫、自覚ないのに飛び込んできてくれたんだ。」



笑われてちょっとムッとする。

だって、本当に言われるまで気が付かなかったんだもの。


口を尖らせた私に、「ごめんごめん。」と悠真は謝る。



「春姫が嫉妬してくれて嬉しかった。…かわいいね、春姫。」



ストレートに言われた「かわいい」と言う言葉に、顔が熱くなる。なんだか悠真の顔を直視できなくて、視線をずらす。


すると、大きな暖かい手に優しく頭を撫でられた。

悠真が笑っているのは見なくてもわかる。隣で優しく微笑んでいる気配がするのだ。





予鈴が鳴って、二人で動き出す。


藍ちゃん達に会う前に、顔が熱いのをどうにかしておかないと。絶対に目を輝かせてどうしたのか聞かれる。


隣を歩く悠真をチラリと覗き見る。

その横顔は、やっぱり機嫌が良さそうだった。




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