魔法の世界 -3
突然、アランの足が止まった。自分の影に潜む怪物に掴まれ、吸い込まれていくように、恐怖で足がすくむ。冷や汗が垂れ、息を呑む。
そこに、何かがいる…。
枯葉を踏みしめる音が静寂を破り、心臓を打ちつける鼓動のように刻々と近づいてくる。
そして、血染めの鋭い眼光がギラリと光る。影がゆっくりと伸びていき、現れたのは黒い衣で身を包んだ人型の魔物、魔人だった。その手には、全身が黒焦げとなった人間の頭が掴まれていた。
アランは目を見開き、足の震えが止まらなくなる。
人間?いや、違う。未知の魔物…。そうか、こいつだったんだ。ケルベロスは群れから逸れたんじゃない。こいつから逃げてきたんだ。
「ニンゲン…。ニンゲンハ…。」
その悍ましい声に、アランは全身の肌が震え立つ。
喋った…のか?どうする?どうすればいい?
「アラン、逃げろ。」
ザルドの必死の叫びが、アランの鼓膜に落雷の如く轟き、目が覚めたように、荒く息を吸い込んだ。
「はぁ、はぁ。ザルド先輩。」
胸を押さえながら、アランが声のした方へ振り向くと、紫色の炎が視界を覆った。ザルドはアランの方へ手を伸ばしながら、その炎に飲み込まれた。振り絞った声は炎の轟音にかき消され、再び視界に映ったのは、彼の黒焦げとなった姿だった。
そのとき、過去のザルドからの言葉がアランの頭を過る。
「何を抱えてるのか知らんけど…。アラン、誇れよ。お前は俺の自慢の後輩だ。それに俺は、お前が強いって知ってるからさ。」
黒く焼け焦げたザルドの姿を見ながら、アランは呆然とし、全身の力が抜けたように、膝をついた。
はぁはぁはぁ。先輩が…殺された。俺も殺される。逃げなきゃ…。俺だけでも生き残って、本部に報告を…。
「ヨワイ…。やはり、人間は弱いな。」
その言葉を聞き、アランは頭に血が上り、全身の震えが止まった。
弱い?そうだ、思い起こせ。…たとえ離れていても愛する人を守る。そのために、俺は強くなったんだ。
アランは腰の鞘から剣を引き抜く。
「炎魔法纏い。」
剣の柄を握る手から放出された炎は茜色の竜が剣の刃に沿って天翔けるように渦巻く。そして、高熱を帯びた刃は、琥珀色に煌めく。
その刃は、鋼鉄の硬度に高熱による貫通力を加えたことで、二級魔法では再現できなかった威力を実現させた。その威力は一級魔法に匹敵する。