魔法の世界 -2
古びた木製の門扉が軋み、重々しく開かれる。王国を囲む、聖壁と呼ばれる白い石壁を抜け、穏やかで少し冷たい風が吹き抜ける広大な平原に足を踏み入れた。
歩みを進めるに連れ、まるで黒い霧に包まれていくように、だんだんと辺りが暗くなっていく。やがて、背後にあった聖壁さえも、覆い隠されるように見えなくなっていった。
静寂に沈み、空気に圧迫されているような閉塞感が、不気味さをより一層際立たせている。
この世界の名は魔界。
カツンカツンと鎧の鉄脚が地面を踏みしめる足音が響き、遠くから魔獣の咆哮が微かに聞こえてくる。
「三級炎魔法、ファイアブライト。」
アランの手のひらから、赤い炎がメラメラと燃え上がる。それは渦巻きながら空中の一点に集約され、球体を形成した。それはまるで小さな太陽のように、眩しい光を放ち、辺りを照らす。
そのまま歩み進めていると、木々の葉擦れが、サワサワと風にそよぐ音が聞こえてくる。
そのとき、「グルルル…。」と、木々に潜む暗闇から、魔獣のうめき声がした。
アランは火の玉をゆっくりと暗闇の奥に運ぶ。その明かりの先に鋭い爪が銀色に煌めく。そして、黒い毛皮で包まれた大きな体と、三つの尻尾、三つの頭を見せる。
──狼種の二級魔獣、ケルベロス。早速、任務開始か。
「二級炎魔法、ファイアフラッシュ。」
アランは火の玉を放ち、ケルベロスの目の前で琥珀色の火花を炸裂させ、目を眩ました。
「二級土魔法、グラウンドブレイク。」
ザルドは、ケルベロスの動きが止まっている隙を狙い、地面を叩きつけた。地鳴りによる轟音とともに、大地は裂け崩れ、陥没してできた穴はケルベロスを飲み込んだ。
「二級炎魔法、トリプル·フレイムアロー。」
アランは三本の炎の矢を形成し、爪で断崖を掻き崩しながら藻掻くケルベロスの三つの頭を射て貫く。
ザルドは周囲を見渡し、眉をひそめた。
「まずは一匹。しかし妙だ。いつもなら、血の匂いを嗅ぎつけて次々に出てくるのにな。」
アランも周囲の気配を探るために、耳を澄まし、息を潜める。
確かに…。こいつだけ群れから逸れたのか?いや、そんなこと、今まで一度も…。
ゔぁぁぁ。
不意に血を凝らすような悲鳴が遠くから響いてきた。
ザルドとアランは顔を見合わせ、互いの瞳に映る動揺を察知する。そして二人は、すぐに悲鳴のあった方へ走り出す。
なんだ?何が起こった?
アランは、だんだんと呼吸が荒くなり、心臓の鼓動を早める。
全身に走る冷気が本能に訴えかけている。そこに近づいてはいけないと。