最終決戦編 -9
ヴァイスは弱い息を浅く吐きながら、血塗れの右肩を見つめる。
「また…何もできなかったよ、母さん…。シュヴァールさん、ごめんね。」
──力が入らない。血が止まらない。俺は…何のために強くなった?母さんの復讐のため?絶望を乗り越えるため?大切な人を守るため?平和のため?いや…思い起こせ。痛みを、幸せを。そう…隣り合うはずだった笑顔を叶えられるように。俺にはまだ…まだ助けたい人がいるんだ。
そのとき、夜露に濡れる一重の白い椿は、”絶望的な敗北”に枯れる古葉を落とすと、その葉陰に隠れるように隣り合って咲いていた鮮やかな真紅の椿が姿を現す。
天使の誓約。天始廻。──天使の加護、”希望”に宿る真の力。多次元に干渉する生命力を顕現し、あらゆるものを再生させる。
それは天使が耳打ち囁くように、ヴァイスの朦朧とする脳裏に魔法を浮かび上がらせる。
「真聖陽魔法、ネオス·レーヴェン。」
ヴァイスの右肩から垂れ落ちていた血が止まると、骨、神経、筋肉が生え、皮膚で包まれる。そして、弱く消えかかっていた鼓動が再び動き出す。
それを見たラズリは、不意に大きく一歩下がると、驚きと恐怖で足を竦ませる。
「何?何なの?腕が再生した?どういうこと?」
ヴァイスは右手を握ったり開いたりさせ、一息つくと、思わずフッと笑う。
「俺にも分からないや。でも、体の内側から”生命力”が溢れてくる。いや、強く感じ取れる。それだけは分かる。」
つい先程、ヴァイスの右腕から爆散した血飛沫に愕然とし、呆然と座り込んでいたシュヴァールは、汗ばむ額に手を当てながら安堵の涙を流す。
「ヴァイス…良かった。」
ラズリは、困惑の表情で頭を掻き毟る。
「まさか…天使の声を?再生の能力?それじゃあ、私はクリム・ヴァイスに勝てない?でも、ここで負けたら、また私は無力なままだ…。」




